ひとり | ナノ



趣味の始まり


一度瞬いて、目の前の惨状から一度目を背ける。
俺の部屋ではないことだけが救いか。
とはいえ、アンジールの部屋にある調理器具のいくつかは俺が貸したものなのだが。
この際、気にしないことにしよう。

「説明しろ、単純明快にな」
「セフィロスは自分で料理するだろう?君に出来るなら、俺にだって出来るはずだ」

ジェネシスの言葉に、頭が痛くなった。
ちらりと、アンジールに視線を向ける。

「ジェネシスが手を出すなと、」
「で、本当に手を出さなかったのか?」
「…いや、」

その返事に、だろうな、と頷く。
明らかに一人の人間のミスではない。
とはいえ、いくつか片付けようとした痕跡が見えるのも事実である。
この間、同僚となった、ジェネシスとアンジールは俺と同じくらいの年であった。
二人は戦闘能力を見込まれて、ソルジャーとしての道に足を踏み入れた存在で。
その働きが目覚ましいこともあって、二人も個室を与えられている。
何故か二人は俺の部屋に入り浸っていて、不思議に思いながらも不快感はないため放っておいていた。
のだが、俺も、氷雨と出会っていなければこうなっていたのかと思うと、目眩すらする。

「どうしてパスタを茹でることすら出来ないんだ…!」

彼女と出会った時には、何も知らなかった自分を棚に上げて叫んだ。
とはいえ、俺が料理も何も出来なかったのは12の頃なのだが…。
氷雨と出会えていて本当に良かった。
が、だからと言って、俺は流石にパスタくらいなら茹でられたと信じている。
その当時の俺よりも年上が、それも二人も居て…ため息を吐きながら、ヤツらに視線を向けた。
袋の裏に茹で方ぐらい書いてあるだろう?
と、静かな問いかけで首を傾げると、アンジールが視線を逸らした。
訓練中は真面目な印象の強い男ではあるが、まさか、生活においてはこんなに何も出来ないとは。
ジェネシスが、ゴミは捨てた!と胸を張っているのを見て、思わず愕然とする。
軽く額を抑えて、何処から片付けるべきか、と考えた。
まずは、散らかったゴミ…というか、残骸。
被害に遭った器具も洗ってから、決まった場所におくことにしよう。
そうして、キッチンを使えるようにしてから、俺が食事を作って、ヤツらに食事を摂らせる。
まずはそこまでか。
…最終的には、アンジールに料理を覚えさせておこう。
ジェネシスでは覚えられる気がしないどころか、むしろ改悪しそうだ。
氷雨の思い出の味を改悪などさせてたまるものか。

「キッチンから出ていろ、特にジェネシス。アンジール、ゴミ袋は何処にある?」
「あ、ああ、それなら水道の下にある」
「…シンクの下か、わかった」

ちらり、時計を確認してから、現状に視線を戻す。
30分で片を付ける。
そう決めて、彼女が触れていた時よりも伸びた銀髪を首許で1つに纏めた。

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