Agapanthus | ナノ



15


白いシフォンブラウスに同じような素材なのだろうか、動くたびにひらひらと揺れるスカート。
肩にカーディガンをかけて、淡い色のパンプスを合わせている。
視線の先には水槽内を見られていることなど御構い無しに自由に泳ぐ魚たち。
水族館内は、平日の昼間だということもあって、人数は少ない。

「どうだい?お気に召したかな?」

いつも通りに悪戯な笑顔でウインクまでしてみせる鶴。
ウインクが似合うのは、男前だからなのだろうか、それとも、慣れているからだろうか。
整った顔を見つめながら考えている日華は、静かに頷いてからもう一度視線を水槽へ戻した。
しばらく無言で二人並んでいたのだが、高価そうな腕時計へ視線を落とした鶴が唐突に彼女の腕をとる。

「なんですっ?!」
「いいから、こっちだ」

にこり、と笑って鶴は彼女を案内する。
カーペットの床を軽く走るように進む白い背中を日華が追いかける。
突然、急ブレーキをかけた背中は、彼女にとっては壁と等しいものだった。
わ、と漫画のような声をあげて額をぶつけた彼女に、彼は申し訳そうな顔で横にずれる。
日華の眼の前に広がったのは、水槽のすぐ向こうにいるペンギンの子供たちだった。

「氷雨から君がペンギンが好きと聞いてな」
「…か、可愛い」

生後まだそれほど経っていないのだろう。
見た目だけでふわふわしているとわかる様子に、大人よりもおとなしい色合い。
クリクリとした瞳で、興味深そうに水槽の外をじっと見ている。
子ペンギンの元に群の大人たちだろうペンギンたちがゆっくりと独特な歩き方で近づいてきた。
親子で戯れるペンギンたちに、彼女のは緩んでいく。
見ている鶴はいつものような悪戯小僧のような顔ではなく、大人らしく落ち着いた微笑を浮かべた。
ふ、とペンギンから顔を上げた日華と幸せそうな鶴の視線が反射する水槽越しにあう。
日華は驚いた顔をして振り返ってから、少し恥ずかしそうに視線を泳がせた。

「はしゃいでるの、見ないでください」
「どうしてだ?君の楽しそうな様子を見ていると、俺も楽しい」

柔らかな笑顔のままでそう告げる鶴に、言葉を詰まらせた彼女。
彼はそんな様子が愛おしいとでも言いたげに、甘く細められた瞳のまま見つめていた。
残念なのか、幸運なのか、その事実に日華は気がつくことはない。
心地の良い沈黙の中、ゆっくりと流れる放送。
内容を聞いて、彼女は顔を上げる。
いつの間にか普段の飄々とした表情に戻っている鶴に、今度は日華が悪戯っぽく笑った。

「イルカのショーがあるみたいですね」
「行こうか。実はイルカのショーは見たことがないんだ」

鶴の言葉に、ええっ、と大げさなほどの声をあげた彼女は行きましょう、と楽しそうに笑った。
ああ、と今度は彼もいつものように子供らしさを見せて笑い返す。
どこかホッとした表情を見せた日華の腕をとって、鶴は歩き始めた。
楽しそうな二人はそのままショーの会場へ向かう。
指を絡めて繋がれた手は、ショーの間もずっと離されることはなかった。
本当に初めてイルカのショーを見たらしい鶴は興奮したように、目を輝かせていて。
それが近くにいた3歳くらいの子供と同じ反応であったことに日華は気がつく。
が、鶴の名誉のためにも黙っていることにした。
もちろん、ただそれだけが理由でもない。

「ジャンプがすごかったですね」
「ああ!」

興奮気味に頷く鶴と、同じくらい楽しそうな彼女自身を、理解していたからだろう。
繋がれた手をそのままに、鶴は提案する。

「そろそろ昼食にしないか?」
「そうですね…あ、このあたりに氷雨のお兄さんの店があるの知ってますか?」

得意げに伝える彼女に知らなかった、と本当に驚いた顔を見せた鶴。
その反応に満足したように日華は案内しますね、と笑った。

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