悪逆 | ナノ



命をかけて守ったのだ
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一瞬の隙をついて、以前仕えたことのある彼女に槍を向けた。
私の鋒はその肉体に吸い込まれるように。
彼女の命を奪うのは、私だと、願っていた。
だが、途中で、両節棍によって阻まれる。
突然現れた緑に触れ、血が飛んだ。

命をかけて守ったのだ

「関索ッ!」

傷を負ったのは、関羽殿の三男である、関索殿。
彼は、最後まであの君主の許についていた武将でもある。
庇われた彼女は、目を見開いていた。

「私の妻を、殺させはしないッ」

そう言った彼は、回し蹴りで辺りを一掃する。
一瞬、その言葉が理解出来なくて、動きが止まる。
赤兎馬の名前を叫んで、彼女を肩に担いだ。
人間を蹴散らしながら現れた赤い馬の背中に女性を乗せ、小さく笑う。

「氷雨、私はあなただけを愛しているよ」
「…やめろ、関索、関索ッ」
「焔、行け!彼女を、絶対に守り切れッ!」

その声に反応するように、嘶いた赤兎馬。
言葉を理解しているのか誰も追いつけない早さで走り出す。
関索はにっこりと微笑んで、私たちを見つめた。
己の得物をしっかりと構えて、憎しみさえ混じった酷く冷たい瞳をこちらに向けている。

「彼女を追うつもりなら、父上でも容赦はしない」
「関索!」

関羽殿の怒気の混じった声を受けても、その表情は変わらない。
むしろ、視線が冷たくなったようにさえ感じる。

「何も知らない、いや、知ろうとしないで、よくもまあ、攻められましたね」

首を傾げて告げた彼は、悩むように口元に手を当てた。
それから、一拍後、自身の得物を持ち、君主殿に直進する。
君主殿は戦いに慣れていない所為か、武器を構えガードすることさえ出来ていない。
思わず舌打ちをしながら、槍を突き出す。

「私は、あなたのことが最も許せないんだ…彼女を最も傷つけ、いつまでも居座った、最初の裏切り者」

彼は、他の刃に貫かれているのを物ともせず、私に向かって、蹴りを繰り出した。
ガードが出来ず、ふらつく。
嬉しそうに笑った関索はそのまま、短剣を私に突き立て、微笑んだ。
私に折り重なるように彼は倒れ、小さく彼女への愛を呟いた。
ふ、と口元に笑みを浮かべて、私は彼に囁く。

「これからの彼女を憎しみで支配するのは、私だ…関索」

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