悪逆 | ナノ



見逃しかけた小さな気遣い
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名を呼ばれ、その部屋に入る。
若い男が二人。
あのうちのどちらかが、彼女の縁談相手だろう。
礼をし、彼女に近づけば、目を細めて私を見つめた。

見逃しかけた小さな気遣い

「面白い男だが、実力は申し分ない」
「ほう?そんな男を置いていくのか?」
「彼方は私と馬騰殿の部下がいれば十分だ、我が部下も一応働くからな」
「それは殊勝だな、しかし、その男、関索、といったか?」
「ああ、かの軍神殿の三男だそうだ、無論それに違わぬ実力もある」

氷雨様は口元に笑みを浮かべながらそう告げる。
その言葉に身を振るわせ、喜びに思わずうっとりとした表情を浮かべた。
目の前の二人が信じられないという顔をする。
ふむ、どうやら、縁談がどちらであっても、断らせることは容易なようだ。
問題は…君主である父親。
俺の反応を見ても、むしろ何処か感心するような顔しかしていない。

「なるほど、目がしっかりしている男のようだな」
「私に忠誠を捧げる辺りで、かなりの変人ではあるがな」

信頼できるものの一人だ、お前たちの共闘依頼でも十分にこなしてくれるだろう。
小さく笑った彼女は、私の忠誠を信じてくれているのだろうか。
むしろ不安である。
だが、進歩しているのは事実だろう。
共闘依頼を今まで頑なに断っていたのは、外に人を出したくないからなのか、それとも。

「私は焔で駆ければ3日で帰れる、焔も、それを望むだろう」

だから、今すぐに共闘依頼を出せ、いいな?
そう続けた氷雨様は、それからすぐに私を見つめた。
私にだけ聞こえるように、小さく続ける。

「お前は残れ、そして、お前が必要だと、そう考えるまで此処で手伝うといい」
「氷雨様、それは、」
「帰るな、とは言わぬ」

困ったように少しだけ眉を寄せたその顔は、戸惑っているように見えた。
そして、気がついた。
私がああいった手前、逃げられないだけではないかと、気遣っているらしい。
だが、それでも、自分の元に戻って欲しい、という気持ちも持ってもらえているようで。

「私の帰る場所は、貴女の許だけですから」

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