鬼神 | ナノ



けってい 1/1


「…口だけでこれほどの理解をするとは」
「今までの教え方が悪かったと証明されましたわね、旦那様」

だから、張春華様怖いって。
なんでこの人こんなに怖いんですかね。
思わずビクッと肩が揺れた。
張春華様は私を見て、眉を下げて笑う。

「あら、氷雨に言ったんじゃないわ、安心して?それにしても、上手ね」
「いっそのこと、師の護衛ではなく、昭の護衛兼目付にした方がいいかもしれんな」

司馬懿様の言葉に驚いて目を見開く。
まあ確かに、司馬師様の隣にいるだけよりは使えるかもしれないけど。
いつの間にやらすぐ近くに来ていた賈充殿もふむ、と悩むように俯いている。
これはまずいだろう。
懇願する体勢になり、口にする

「司馬懿様、私は司馬師様を守ると誓った身、何卒お考え直しください」
「あら、よかったわね、子元」
「…私は、」

複雑そうな顔に、不安になる。
司馬師様には要らないと思われているのだろうか。
確かに、役に立つことなんて滅多に無いけど…。
戦のときに背中を守るとか、囲まれたときに盾になる程度しか出来ないもんなぁ。

「司馬師様が要らぬとおっしゃるのであれば、」
「要らぬとは、言ってない」

その言葉にホッとして、眉を下げる。
有難きお言葉、告げながらの拱手。
が、すぐに張春華様の言葉が続き、思わず凝視する。
なら、教師になってもらえばいいとか言いませんでしたかね、この方。

「ふむ、同席させてもらいたい」
「え…え、その、私は、一介の司馬師様の護衛なのですが、」
「いいだろう、師の護衛中の一刻、昭との勉強に時間をあてろ」
「旦那様?その言い方は如何かと思いますけど?…でも、お願いできるかしら?子元もいいでしょう?」

断われない。
断わるなんて選択肢、最初からなかったんだ。
うん、知ってる。
なんで、賈充殿同席で司馬師様の護衛中に司馬昭様の教師…!
いや、うん、一応司馬師様の許可さえあれば邸内での護衛はある程度しなくてもいいけど、マジか。
思うだけはただ、口では御意にとだけ言葉にした。

いつも通り、司馬師様のための肉まんを作るため一時的に厨に入る。
今日は少し野菜を増やそう、と少し味を変えた。
中身の変更は出来るのだ、自分で今まで試していたから。

「司馬師様、」
「入れ」

若干弾んだ声にゆたりと微笑みながら扉を開ける。
どうぞ、と彼の前に肉まんを置くと、じっと私を見上げてきた。
そんな、待てをされてるわんこのような顔をされても…。
蓋を開けるとふわりと湯気が舞う。

「熱いのでお気をつけ下さい」
「ああ」

毎回思うが、本当に肉まん好きなんだな…。
と、そこまで考えて、ハッとした。

「…どうした?」
「私の作ったものでいいのですか?命令さえいただければ街で有名な肉まんを買ってきますが、」
「お前のものがいい、気にするな」
「…有難きお言葉」

彼の顔は、一瞬も揺れなかった。
つまり、私の肉まんを望んでくれているということだろう。
嬉しさを噛み締めていると、司馬昭様が現れた。

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -