鬼神 | ナノ



かちかち 1/2


「子上様、ここなら、誰もいませんよ」
「ここ…は?」
「私の家、とでも言えばいいでしょうか?」

定期的に人に頼んで掃除してもらっているこの家は綺麗と言えるだろう。
金目のものなんて何もないから、盗まれるものもない。
笑いながらお茶を淹れて、向かい合わせに座る。

「子上様」
「…俺は、間違っているか?」
「間違ってはおりません」
「…なら、正しいか?」
「太平の世の民であるのならば、正しいでしょう」
「今の、俺の立場であれば?」
「一つの案ではあるかと」

私の言葉に、そうか、と呟くように告げる子上様。
茶で喉を潤して私はゆっくりと口を開いた。

「あるところに老夫婦がおりました」
「え?」
「その夫婦は貧しいながらも幸せに暮らしておりましたが、唯一困ったことがありました」

突然話し始めた私に戸惑ったものの、それでも子上様は私の話を聞いてくれる。

「畑を森の狸が荒らして、せっかく出来た食物を奪っていくのです、根こそぎ荒らしていくこともありました」
「…」
「そこで、翁は畑に罠を仕掛けることにしました…翌日、翁が出かけている間に、嫗がその罠にかかった狸を見つけます。狸は言います『私は、確かに悪い狸でした。でも、こうなって反省しております、許してください』と…嫗はその狸の涙ながらの謝罪を受け入れ、罠を解いてやりました。しかし、狸は近くにあった杵で自分を助けてくれた嫗を撲殺してしまいます。そして、翁が帰ってくる前に家へ入り込み、料理を作り始めました」
「は…?」
「山から帰った翁は妻に迎えられ、温かな料理を差し出されます。そこには肉が使われており、不思議に思った翁は妻に聞きました『これは何の肉だ?』と。嫗は答えます『狸が罠にかかったので、今日はたぬき汁です』と。翁は喜び、その料理を食べました。食べ終わってすぐに、嫗が狸へと変わります。そう、嫗は狸が変化していた姿だったのです。そして、翁は全てを理解しました。自身が食したのは、妻であったのだと、そして翁は嘆き悲しみました。その悲しみはいつまでも晴れません。そこに、一羽の兎が現れました。その兎は以前森で怪我をしていたところを老夫婦に助けられ、恩義を感じていました」

かちかち山ってなかなかにえげつない。
なんて思いながら話していく。
そして、最終的に兎が狸を湖に沈め、溺死させたところまでを話した。

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