鬼神 | ナノ



せいしのへん 1/1


興勢山より一年が経った。
どこまでも利己的でしかない曹爽殿は、何を考えたのか、洛陽を離れる。
それが、司馬懿様の願い通りなどとは知らないままに。
司馬懿様に集められた皆々様とともに、攻め入ることを指示される。
複雑そうに眉を寄せる司馬昭様と、それを嗜める賈充殿と子元様。
その様子を目に留めて、後で声をかけておこうと決める。
それからは至極あっさりとことが運んだ。
現れた曹爽の間者はすぐに片付けられたし、途中我々に味方しようとして閉じ込められていた将も助けた。
勢いよく攻めていく子元様と、どこか戸惑いながらも戦っている司馬昭様を見る。
お二人の力が強いからか、それとも、敵に戸惑いがあるからか、ほとんど私の出番はない。
唯一気にかかるのは、司馬昭様の御心だろうか。
太平の世界を築けば必須となるその心を失うことなく、それでも上に立つものとしての割り切りを覚えていただかなくてはならないのだ。
きっと、苦痛であろう、だが、それが彼に求められていることなのだ。

「氷雨…?」
「司馬昭様…いえ、子上様、後でお時間をいただけますか?」
「え?…ああ、俺からも頼む」
「畏まりました。納得いくまで、お付き合いいたします」

私の声に目を見開いてから、納得したように告げた子上様にホッとして。
柔らかく笑った彼は、じゃ、さっさと決めないとな!と気持ちを新たにしたように前を見据えた。
玉座の間で張春華様が、司馬昭様に対して、その活躍はどういうこと?と怒ったように言っていたのは聞かなかったことにした。
やれるならいつもやりなさい、という言葉にも肩をすくめた司馬昭様はそれでもどことなく柔らかい。
その反応に驚いたようにぱちり、と瞬いた張春華様は辺りを見回して、元姫を呼び寄せていた。
と、曹爽が洛陽に帰ってきたという報が入る。
彼らの先鋒を全て討ち、すぐに着いた本隊も曹爽を残し、全員を討ち取った。
途中助けた将たちが足止めしてくれた曹爽も子元様が討ち、ここに正始の変は終結する。
眉を顰めた司馬昭様は、一度深呼吸してから、私を振り返った。

「氷雨、」

私は小さく笑いながら頷く。
ピィ、と馬笛で愛馬を呼ぶ。
遠くから駆けてくるその手綱を取り、そのまま跨る。
よっと声を出しながら私の後ろに子上様が乗った。
司馬懿様と張春華様に一礼して、子元様に笑いかけた。
元姫と賈充殿は多分わかっているだろうし、とそのまま馬の腹を蹴る。

「頼んだぞ」

小さく子元様の声が聞こえた気がした。

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