鬼神 | ナノ



ほうび 1/1


戦が終われば、処理が行われる。
五丈原の呂布って、女につけるあだ名じゃねーよ、と思ったのだが、どうやら敵には男と思われていることが多いらしい。
自分から男装に近いこともしているし、それはおかしくはない。
それじゃあ、呂布にもなるか、と肩をすくめながら、今回の戦いに参加していた将たちに感謝を告げに行く。
彼らも本陣にいてくれたからこそ、私は安心して敵を攻められたのだ。
だが、どちらかというと鬼神の方に目を向けられ…護衛武将ではなく将になったらどうだと言われてしまった。
丁寧にそれを断って、子元様の元へ戻る。
武器のヒョウを手元で遊ばせるように確認しながら、子元様の馬と自身の馬を引く。

「そのヒョウ…やはり、氷雨のものか」
「子元様?」

独り言のように告げた子元様はそれはそれは嬉しそうな顔をしており、そのまま行くぞ、と司馬懿様を示した。
かしこまりました、と答えてゆっくり馬を歩かせる。
司馬懿様の前に到着すれば、ひらり、と優雅に馬から降りる子元様。
彼は氷雨、と私の名を呼び、ヒョウを見せろと告げた。
は、と返事をして、それを見せる。

「…元姫が正しかったか」
「旦那様、だから言ったでしょう?氷雨は絶対に子元を傷つけない、と」
「だが…あの状況でああもできるとは思わんだろう」

眉を寄せるようにして告げた司馬懿様の言葉に、張春華様もそれは、確かにそうだけれど、と苦笑する。
何?なんの話?
首を傾げていれば、司馬懿様は小さく告げた。

「お前が倒した敵将を、自身が倒したのだと告げる兵士がいたのだ…昇進させるべきかと思ったのだが」
「元姫がね、その将を倒したのは氷雨だって言うから」
「…ですが、私自身はヒョウを投げただけで、その兵士が将を押しやることで、倒したのやもしれませぬ」

自分自身が倒したという確証はない。
あの時投げた記憶しかないから、私が本当に倒したのかと問われれば答えることはできないのだ。
死因が私のヒョウなだけで、決して私の手柄とは言い切れない。
苦笑しながらそのことを告げれば、司馬懿様は不思議な顔で私を見た。

「ふふ、これが氷雨ですよ、旦那様」
「…氷雨、ならば、お前は何を望む?」
「ただただ子元様をお守りする責務を、もしくは、子元様の無事を」
「己は、ないのか?」
「父母より受け継いだのは、護衛の魂のみ。護衛武将であることこそが、己自身です」

頭を下げてそう告げる。
司馬懿様はそうか、となんとも言えない顔をした。
その顔に小さく笑う。

「ただ、一つ願いが叶うならば…妹の行く先が、なるべく良い場所であるように、と」
「…だから、己の願いはないのかと聞いているつもりなのだが」
「主人に恵まれ、その家族にも暖かく受け入れられ、何を不満に思う必要がありましょうか」

真顔で首をかしげる。
唖然とした顔から、大きな笑い声に変わった。
…どうやら、お気に召したらしい。

「ああ、やはりお前を引き込んだのは正解だった…これからも師を頼むぞ、氷雨」
「御意に」

しっかりと頭を下げて、口元に笑みを浮かべた。
ああ、本当に、この方たちに仕えられて良かったと思いながら。

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