悪魔の寵姫 | ナノ



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頑張れ俺、やればできる・・・はず、きっと、多分

氷雨さんと連絡先を交換したハーフタイムも終わり、試合も終了に近づく。
最後まできっちりビデオに収めた彼女は、ホッとしたようにカメラを鞄にしまう。
それを抱えるようにして、俺たちの後に続いて移動を始める。
階段下から泥門の声が聞こえたとき、だった。
がしり、と掴まれていた筈の猪狩が階段下へと飛び出す。
どうやら大田原さんをバカにされたからのようで、高見さんが止めたが遅かった。

「っ!」

息を飲む声にそちらを向くと、飛び降りた猪狩の体が当たったのだろう、バランスを崩している氷雨さん。
え、と思いながら手を伸ばす。
こっち側(下の段)に倒れてきてるし、危ない。
カメラを守りたいのか、鞄を抱きしめているから、頭を打ってしまいそうだ。
勢いのついた氷雨さんにあまり振動がないように抱きとめるために手を広げる。
鞄を抱えて前屈みになっていたからなのか、なんでなのか、よくわからない。
ただ、勢いをほとんど殺した後に、ふわりと、唇が触れた。
………えっ?
驚いて、俺もバランスを崩しかける。
慌てて一段下に片足を降ろして、なんとか堪えた。

「…!桜庭さん、ありがとうございます!」
「う、うん。怪我はない?」
「桜庭さんのおかげで、カメラも無事です」

にっこり、綺麗に笑顔を浮かべる彼女にさっきのは気のせいだったのかもしれない、と思う。
そのことも含めてホッとして、年上にタメ口で話してしまったと気がついた。

「っと、すみません。偉そうな聞き方しちゃって、」

って、しちゃって、もダメだ。
なんて思っていれば氷雨さんがにっこりと笑う。

「気にしないでください。私は“敬語使っとけ”という妖一さんに従ってるだけですから」

それに、楽に話してもらった方が、私としては嬉しいです。
続いた言葉に、頷いて、じゃぁ、といつもの通りに話させてもらうことにした。
嬉しそうに笑うと、幼く見えるんだな、と思っていれば、ふと若菜から声がかけられる。

「で、桜庭さんはいつまで氷雨さんのこと抱きしめてるんですか?」
「ご、ごめん!」

慌てて離れた。
氷雨さんは驚いたようにして、それから恥ずかしそうに頬を染める。
眉を下げて、俺を見た。

「こちらこそ、始まりといい、ご迷惑ばかりおかけして、」
「いやいや、俺は全然、」

っていうか、むしろ得してる気がしないでもないし。
と心の中だけで続けて、ヘラッと笑ってみせる。

「おい、氷雨何やってんだ、置いてくぞ」
「はぁい、今行きます。じゃぁ、後でメールしますね」

別れ際ににこり、笑って、彼女は泥門メンバーの元に駆け寄った。
最後にちらりとこちらを向いて、手を振る様子に可愛らしいと言う印象を受ける。
手を振り返していると、その手を進に掴まれた。
吃驚して、そちらを向くと、無言のまま俺をじっと見上げている。

「し、進?」
「…」

問いかけるが、答えが返ってこない。
首を傾げて、進を見る。
不思議に思いながらも、次の言葉を待っていた。

「口付けたことは謝らなくて良かったのか?」
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