悪魔の寵姫 | ナノ



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神様、意気地無しの俺を許して下さい

「この辺なら、大丈夫ですかね」

座った席の斜め後ろから声が聞こえて、視線をそっちに向けた。
瞬間だった。

「邪魔なんですけどー」
「え、すみまっ、」

他の女の子の声が聞こえて、人がぶつかる音。
それから、すぐに顔面に柔らかな感触。
すぐにその状況に気がついたらしい進が俺にぶつかったものを退かしてくれた。
…その瞬間、何が起こったか気がつく。

「っご、ごめんなさい!」

両手を顔の前であわせて、頭を下げる。
俺にぶつかったのって、この女の人の、胸、だよね。
それを理解した瞬間、柔らかさとか、甘い香りとかが思い浮かんで、顔に血が集まる。
見られないように顔を逸らして、本当にすみません、と声を上げた。
彼女は、進にお礼を言ってから、俺の顔を覗き込んだ。

「いえ、私の方こそ申し訳ありません」
「や、俺が…すみません」
「私がカメラを両手で持ってたのも悪いですし、それに、桜庭さんがいらっしゃったから怪我もないですし」

にこり、笑った彼女に驚いた。
謝り合っている俺たちに気がついたのか、高見さんとショーグンが振り返る。
高見さんが驚いたように声を上げた。

「あなたは、泥門の、」
「あれ、高見さん私のことご存知なんですか?」

ぱちり、驚いたように瞬いた彼女は、にこりと微笑んだ。
それから一度頭を下げて、お隣いいですか?と続けた。
驚いたように目を見開いた高見さんは、すぐに眼鏡をあげて、もちろん、と微笑んだ。

「知っているようですが、高見伊知郎です」
「私は、氷雨です。えぇと、名字は…ちょっと待ってくださいね」

彼女は鞄を開いて、身分証らしきものを取り出した。
えっと、と探してから自分の名字を告げる様子は、明らかに異質だ。
そんな視線に気がついたのか、氷雨さんは眉を下げた。

「貴女の経歴が全くないのと関係してますか?」
「ですねぇ。私の戸籍最近作られたばっかりなんで、色々情報がないんです」
「それは、どういう、」

眉を寄せた高見さんが何か言おうとした瞬間、電話が鳴った。
すみません、と頭を下げた氷雨さんが携帯を開く。
俺のと同じ携帯電話だ、と思っていると、首を傾げた。

「なんで、一輝さんの方に電話かけてくるの」

一輝さん?と聞き返そうとしたが、その前に彼女は悩んだようにオフボタンを押す。
切れた電話に驚いたように固まった彼女に、声をかけた。

「こっちです、通話ボタン」
「あ、え…ありがとうございます」

もう一度音が鳴り始めた携帯に今度こそ、通話ボタンを押す。
耳に当てて、彼女は困ったように笑った。

「すみません、妖一さん。一輝さんの携帯には慣れていないんです」

開口一番にそう言った氷雨さんだった。
だが、後ろから画面を見ていて、その“妖一”と言う名前は見ていない。
あったのはただ、『悪魔』の一言のみだった。
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