悪魔の寵姫 | ナノ



06
しおりを挟む


貴方に伸ばしている腕

氷雨さんはバイクで後衛組の前を走り、安全を確認している。
ついでに飲み物やタオルなど、休憩に必要なものも荷物として持っていっていた。
夜になればライトをつけて、安全確認と後衛組に誰か欠員がいないかの確認。
だから、練習中は全くと言っていい程に視界に入らない。
代わりに、と言えばいいのか、夜はよく壁組に話しかけにくる。

「一輝さん、お疲れですね?」
「そりゃぁな」

にこり、笑いながら冷えポイを俺の肩に巻いた。
それから真顔で俺の顔をじっと見つめて、柔らかく微笑む。
思わずその表情から視線を逸らした。

「すっかりスポーツマンの顔ですね。ステキです」

これからも頑張ってくださいね、と俺の言葉を待たず、そのまま背を向けて他のヤツらのところに行く。
楽しそうに、明るく言葉をかけていく様子を見つめた。

「気になっか?」

突然隣からかけられた声に、視線を向ける。
蛭魔が無表情のまま、氷雨さんを見つめていた。
その視線には色々なものが押し込まれているだけでなく、俺と同じものがあると気がつく。
だからこそ、俺に話しかけたのか。

「クリスマスボウルまではそんな余裕ねぇよ」

きっと、蛭魔も思っているだろうことを口にする。
驚いたように此方を一瞥して、それから口角をつり上げた。

「氷雨!」
「はい!」

弾かれたようにこちらを向いた彼女は、疑問符を浮かべていて。
こちらを一瞬だけ見た蛭魔は、言った。

「明日の晩飯、カレーな」
「え?あ、はい。了解です」

ぱちぱちと、何度か瞬いてから、にっこりと可愛らしい笑顔を浮かべる。

「一輝さんも、明日のカレー楽しみにしててくださいね」


「えっと、鈴音ちゃん?と夏彦さん?ですね。よろしくおねがいします」

にこり、といつもの通りの笑顔を浮かべて、氷雨さんは二人にもカレーを手渡した。
それから、全員に行き渡っているのを見つつ、気がついたように荷台へ向かう。
カレーの鍋の方はマネージャーに任せて、何を取りに行ったのかと思えば、水だった。
俺たちが円になっているところへ置く。

「氷雨、」
「なんでしょう?」

首を傾げる氷雨さんを引き寄せて、自分の足の間に座らせた。
吃驚した顔をしている彼女の額に手を当てて、はぁ、とため息を吐く蛭魔。

「バカか、明日明後日はバイク禁止な」
「え、置いてくの?!」
「乗せろって言ってんだよ。あとさっさと食って寝ろ」

足の間から解放された氷雨さんは眉を下げて、不満そうな顔をしていた。
が、先ほどの会話から、何があったのか理解したらしいマネージャーが冷えポイを持ってくる。
不機嫌そうにしながらも大人しくトラックに向かう氷雨さん。
一瞬ふらりと揺れて、立ち上がりかけた。
が、すぐに隣にいたマネージャーに支えられて、トラックの中に入っていく。
ほっとして、カレーを口に運ぶと、黒木と戸叶ににやにやとした顔を向けられた。
[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -