特別な君
特別な君
俺の名前は神<ジン>であって、決して神<カミ>ではない。
東北の方に多い名字らしいが、詳しくは知らない。
そんな俺の名字だが、あだ名として<カミ>と呼ばれることには慣れた。
クラスでも(もしかしたら学年でも)それは周知の事実になっていて、誰かが、神<ジン>だよ、と注意することもない。
「ねー、カミー。否、カミさま。」
「…なんだよ、」
「お願い、ノート見せて。」
上目がちに見つめて、手を合わせて来る白雲さん。
ふぅ、と息を吐いて、何のノート?と聞けば、数学、と小さく答えが返って来た。
仕方ないなぁ、と数学のノートを取り出してはい、と渡す。
「ありがと!今日中には返すから。」
にっこり満面の笑みを浮かべた彼女に、よろしく、と告げて、次の授業の用意をした。
放課後、部活の始まるちょっと前。
男子バスケ部体育館に、普段は練習中しか響かない女の子の声が聞こえた。
「カミー!…数学のカミさまー。」
ぽかんとした表情のノブや牧さんがいて。
思わず、苦笑しながら、その声の元へ向かった。
想像した通り、そこには白雲さんがいて、ノートと袋をぶら下げている。
「ちゃんと供物も持ってきたよ!」
「…供物って。」
「はい、ノートありがとうございました、ジンくん。」
いつもと違う、呼び方に一瞬目を見開いた。
俺のそんな反応に彼女は気がつかないようで、俺の手にノートと結構重いビニール袋を持たせる。
ずし、と指に食い込むくらいの重さに彼女を二度見すると、照れたようにえへへ、と笑った。
「また、ノート貸してね!」
そう言って、すぐに走り出した彼女は思い出したように立ち止まった。
「カミ、部活頑張って!」
「ありがと、白雲さん。」
背中を向けた彼女を見送って、ノートとビニール袋を部室に持っていく。
ノートの隙間に挟まっていた小さなカードがひらり、と落ちた。
『神くんは私の神様だー!本当にありがとう!!』
どうしてだか、彼女の楽しそうな顔が見たくなった。