吸血鬼 | ナノ



2


珈琲を一口飲んで、一瞬、眉をしかめた。
目の前で嬉しそうに顔を綻ばせるヒサメをちら、と確認し、外に視線を向ける。
他愛ない話を、彼女が話し、彼は一言二言と挟むだけで静かに聞いていた。
ヒサメが、珈琲を飲む。
二人の間に、沈黙が落ちた。
ふと、思い出したかのように、スモーカーが問いかける。

「アイツらはいいのか?」
「スモーカーさんの居る街なら、問題ないですよ。」

きゅ、と口角をつり上げて、目を細める彼女に、そうかよ、と静かに返す。
そうなんです、と呟くように言うヒサメは、両手で珈琲カップを握りしめた。
スモーカーのカップは既に空になっていて、葉巻を吸っている。
顔を外に向けたまま、横目で、彼女のそんな様子を見た彼は、軽く、笑う。

「…今度は飯でも行くか。」

その言葉に、ぱちぱちと数回瞬いて、ヒサメは嬉しそうに破顔した。
次に、随分前に空になっていたカップをソーサーにおいて、頷く。
彼女の反応にスモーカーは笑って立ち上がった。
支払いを終え、カフェから出た二人は、分かれ道まで並んで歩く。
十字路に着いた二人は、向い合った。

「約束ですからね。」
「ああ。」

ヒサメの言葉に頷いたスモーカー。
ふと、腕を伸ばして、彼女の頭を自分の胸元に引き込む。
ぎゅう、と両腕で抱きしめて、何か言おうとして、躊躇ったように一度口を閉じた。
フッと笑んで、耳元で囁く。

「またな、ヒサメ。」

ん、と彼女が一度頷いて、二人は離れた。
スモーカーは相変わらずの不機嫌顔で、ヒサメは小さく微笑みながら、一度、目をあわせる。
それから、無言のまま、お互い背を向けて、十字路の別の道に足を踏み出した。

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