「…すっげぇ量だな。胸焼けしそう。」

「ロイ。」


城の皆から貰ったチョコレートとメッセージカードを改めていると、いつの間に部屋に入って来たのか、頭上からロイが覗き込んでいた。


「足の踏み場も無ぇじゃねぇか。」


うんざりと呟くロイに、僕も思わず苦笑いを溢す。チョコの山を掻き分け、自分の隣に座れるスペースを作ると、当たり前のようにロイが其処に座り込んだ。


「で、王子さんから俺には貰えねぇの?」

「え……?」


周りに散らばっているカードを読んでは(勝手に読んじゃダメだよ、と言ったけど無視された)放り投げているロイに聞かれ、硬直した。
………バレンタインの存在なんて、すっかり忘れていたから、チョコなんて用意してないのだ。


「…………」

「…………」

「んだよ、無ぇのかよ…。」

「ご、ごめんね?あっ!良かったら一緒に食べる?」


ガックリと項垂れるロイに申し訳なくて、せめて貰ったチョコを御裾分けしようと思ったけれど、


「……いらねーよ。」


すっぱり断られてしまった。
しかも、何だか一気に不機嫌さが増している。


(どうしよう…?)


忘れていた自分が悪いのだけど、それでもやっぱりロイに冷たくされると悲しい。
考えた挙句、貰ったもののうち一つを開封し、口に放り込むと、


「…ロイ。」

「あ?」


そのまま、ロイに口付けた。


「………!」


チョコレートを絡ませた舌をロイの口内にねじ込むと、驚いたのか一瞬の間を空けてから、ロイの舌が僕のそれを押し戻すようにして僕の口の中に入って来た。


「んんっ……ふぁ…、」


そうしてチョコと一緒に僕の舌も絡め取られて、再びロイの口内に引き摺り込まれる。


(………甘い。)


先程口に入れた時とは比べ物にならない程、甘く感じる。中のガナッシュが甘いからなのか、それとも、


(……クラクラ、する。)


頭の芯が痺れるような感覚に陥り始めたあたりで、漸くロイが離れていった。
二人の口唇を繋ぐ銀の糸がぷつりと切れるのを視界の端に認めてから数瞬、徐々に意識が回復する。
チョコは、とっくに無くなっていた。


「あの……これじゃあダメ、かな?」


急に黙り込んでしまったロイに、恐る恐る問い掛ける。
軽くうつ向いている為、前髪に隠れてしまった表情を確認しようと、下から覗き込んだ瞬間、腕を掴んで引寄せられた。


「わ…!」


そのまま耳朶を甘噛みされて、背筋にゾクリと震えが走る。


「ロっ…!」

「……もう一個寄越せよ。」


耳に吹き込むように呟かれた言葉に擽ったさと、安堵と、そして再びの浮遊感を感じながら、


「…うん、良いよ。」


二つ目のチョコに手を伸ばした。






口溶けショコラ






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