「今日も気持ち良く晴れたねー。」

「ここまで晴れると、逆に鬱陶しいだろ。」


目も眩む程の陽光の下、桟橋に腰掛け、膝から下を湖に浸けて空を見上げる。

ファレナは冬でも温暖な土地だが、それ故に夏は恐ろしく暑い。
照り付ける日光は絶大な威力を誇り、日射病や熱射病は、誰しもが子供の頃に一度は経験する。

今も、その容赦ない熱線を浴びている桟橋から、じりじりと焼け付く音が聞こえてくるようだ。


「おりゃ。」

「ふわっ!!」


不意に背後から背を強く押され、湖の中へ落下する。


「ロ〜〜イ〜〜。」


橋の上を振り仰ぎ、犯人を睨み付けるが、当の本人は何処吹く風で明後日の方向を見ている。


「……えいっ!」

「どわっ!止めろ、バカ!!」


仕返しに、油断しているロイの足を掴み、水の中に引き摺り込んでやる。自業自得だもんね。


「何やってるんだい、あんた達。」

「王子、大丈夫ですか!?」


二人でふざけあっていると、城の方向から此方へ、声が近付いて来る。


「叔母上。リオン。」

「げっ、リオン!」


目を吊り上げて走り寄るリオンの姿を目にして、途端にロイの表情が苦くなる。


「ロイ君!また王子に何てことを…!」

「良いじゃねぇかよ。こんぐらいで怒んなよな。」

「王子がお風邪を召したら、どうするんですか!」


あまりのリオンの剣幕に、思わず苦笑してしまう。ちらりと視線を巡らすと、叔母上も僕と同じような表情をしていた。目が合った瞬間、二人でひっそりと笑い合う。


「リオン、冬じゃないんだし、大丈夫だよ。」

「冬でも風邪なんか引かねぇだろ。」

「ロイ君!」

「それよりリオンもおいでよ。楽しいよ。」

「えっ、は、はい!……王子がそう仰るなら、お邪魔します。」

「……風邪引くんじゃなかったのかよ。」

「夏に湖に入ったって、風邪なんか引きません。」

「さっきと言ってること違うじゃねぇか!……っていうか、夏じゃなくても風邪なんか引かねぇだろ!!」

「はぁ……若いねぇ…。」


そうして湖で散々遊び、叔母上に言われて水から上がる頃には、空が染まり始めていた。





 ***





「ローイ。」


円堂基部のロイの部屋。
勝手知ったる何とやらで、ノックなしでお邪魔する。
何時ものことなので、ロイも特に咎め立てしない。


「よぉ。遅かったな。」

「叔母上と話し込んじゃって。」


ロイと付き合い出してから、夜は交代でお互いの部屋を訪うことが、暗黙のルールになっていた。
今日は、僕がロイの部屋に泊まる番だ。


「さっきね、塔の1階の階段の前でね、面白い話聞いたんだ。」

「どんな?」

「この城ね、幽霊が出るんだって。」

「……へぇ。」

「今夜、肝試しするらしいよ。」

「ウゼェ。」


そう斬り捨てて、寝台に寝転ぶロイに思わず苦笑い。
確かに、塔も円堂も基部は薄暗いから必然的にコースに組み込まれているだろうし、夜中に部屋の外で騒がれるのは、あまり気分が良いものではないけれど。
暑い夏を乗り切る為の趣向なのだから、多少は目を瞑ってあげても良いんじゃないかな。

そう思ってロイに伝えると、彼は少しの間を空けてからニヤリと口端を上げ、―――僕が嫌な予感に身を翻そうとした時には、視界が反転していた。


「……要するに、王子さんは、今日は見られながらシたいってことだな。」

「なっ!?なななな何言ってんの!」


思った通り、恐ろしいことを言うロイに全力で否定するも、全く通用せず、ニヤニヤ笑いは増すばかりだ。体勢的にも、僕に分が悪い。


「良いじゃねぇか。たまにはそういう趣向も悪くねぇと思うぜ?」

「嫌…だって、ば…!」


ロイの手が肌を滑り、否応なく煽られていく。


「結構、盛り上がったりして…な。」

「ば、バカ!……んぅっ…。」


唇を重ねられ、絡め捕られた舌をねっとり愛撫される。

……あぁ、流されるな…。

麻痺し始めた頭で、ぼんやりと思った刹那、


バン!


大きな音を立てて、部屋の扉が開かれた。
そして、数瞬の後に、火の灯った蝋燭を手にした男がズカズカと入って来た。


「……ほら、何もいねーじゃん。」

「おっ、おまっ、お前っ信じらんねー!!こーいうのって普通ゆっくり開けるもんだろーが!いきなり全開にする奴があるかー!!」

「んなもん、どう開けようが一緒だろーが。」

「ユーレイがびっくりして襲って来たらどうすんだよ!」

「だぁから、幽霊なんかいるわけないだろ。」

「もしいたらどうすんだよ!いないって証拠が何処にあるんだー!」

「あー、分かった分かった。ほら、次行くぞ。」

「わっ、バカ!置いて行くなって!」


突如現れた二人の招かれざる客人は、一頻り騒いだ後立ち去っていった。

部屋に、静寂と暗闇が舞い戻る。

ふと気付くと、開かれたまま放置された扉を、ロイが苦々しい表情で見詰めていた。


「……そんな顔しないで、ロイ。」


珍しく沈んだ表情を見せるロイに、元気付けるように微笑みながら、その首にするりと腕を絡ませた。


「ロイ、僕ね、………生きてた時より、幸せだよ。」


そうして、その口許に、自身の熱の無い口唇を寄せる。
ロイは何か返そうと口を数回開け閉めしたが、結局何も言わずに口付けてきた。

再び、ロイが圧し掛かってくる。僕もそれに応えるように、腕を、脚を、ロイに絡ませる。


―――どれだけ身を寄せ合っても心音を伝えない身体、温もることの無い肌。


それでも、ロイが名前を呼びながら重ねてくれた口唇は、僕には酷く温かく感じた。







或るの日の
















シナリオ前半と見せ掛けて、実はED後だったという話。
しかも幽霊なロイ王。

よくよく見ると、水飛沫も立ってないし、リオンは足音立てずに走ってるし、バカップルがいちゃついても(…)ベッドはまったく軋んでないのです。

幽霊同士は触れるという設定にしてます。





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