第10話

昼休み、私はそこまで高くないフェンスの上に座っていた。夏とは思えない涼しい風が吹いていて気持ち良い。空は蒼く澄んでいて綺麗だ。今ここで行われることとはまるで正反対の空を私は睨んだ。そういえば、あの日もこういった空をしていたなぁ、と昔のことを思い出していると勢い良く屋上のドアが開かれた。

「良いもの見せてくれるって自殺のことー?それとも何?私に付き落されましたー。なーんて、言うつもりー?」

私を見るなり、そんな馬鹿なことを言い出した東條の方を振り返った。

「それは・・・貴女の返答しだいよ。」

「はっ?!」

ふっと小さく笑い、東條の方に身体を向けて座り直した。私の言葉を聴いた東條は目が点になっている。

「貴女には訊きたいことがあったのよ。前々からねっ。・・・・・何故、こんなことする?」

「こんなことぉ?美姫ぃ、何の事だかぁ分かんなぁーいっ。」

「惚ける意味あるのかな?私や軌翠さんにして来たこと、忘れたわけじゃあるまい?私達を嵌めて楽しい?」

「・・・ふんっ。あんた達が美姫のものに手ぇ出すからでしよう?当然の報いじゃないのぉ?景吾もテニス部も、カッコいい人は全員、美姫のものなんだからねっ!?」

「・・・もの、ねぇ・・」

小さく呟いた言葉は東條には聴こえなかったらしく、また口を開いた。

「だーかーらー、景吾と別れてくれるよねぇー?徠歌ちゃーん?・・・・まぁ、別れたところであんたを潰すことは変わらないんだけどねぇ?」

そう言って、ギロリと睨んで来た東條。

「貴女にどう言われようと、何されようと別れる気なんて無いからっ!」

強く言った私の言葉で東條を逆なでしてしまったようで、東條はフェンスの上に座る私に近付いて来た。私は逃げることもしないで無表情のまま、東條の行動を見ていた。黙ったまま、フェンスを乗り越え、後一歩前に出れば落ちてしまうだろうという所で立ち止った。

「・・・何をするつもり?」

身体を反転させ、大体の予想はついてはいるが、訊いてみた。

「何ってぇ・・・こーするのよっ!」

東條は私の前に来て、私の手を取り、あたかも私が付き落そうとしているように見せている。

「・・・きゃああああぁぁぁぁぁぁーっ!?助けてぇ、殺されるうううぅぅっ!」

甲高い声を上げて叫んだ東條の声を聴き付けた人達が屋上へと登って来る。

東條。私がそう簡単に貴女の策略に乗ると思うか?悪いが、乗る気なんてない。ふふっ。残念だったな。

そう思っている間にも東條は落とされそうになっているのを必死に抵抗しているふりをしている。そんな中、声を聴いて助けに来た者達が、屋上のドアノブを捻る音がする。それを後ろ目で確認した瞬間、私は掴まれた手を解いて東條と自分の位置を逆転させた。その勢いで、私は屋上から落ちた。

東條は何がどうなっている分からず、落ちていく私の方に手を伸ばしながら唖然と私を見ている。

さぁ、貴女はこの後、今のシーンを見た人達にどう良い訳する?来た者達は多分私が落ちていくところしか見ていないはず。そうすれば、落ちたのは私で、そこに居た貴女が落としたと思いこんでしまう。クスッ。貴女が使った手だ。どう良い訳するんだ?楽しみだな。

落ちながらそんな暢気なことを思っているのであった。

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