忍足 Side

「昼休み、屋上に来てみなよ?」

そう永藤に言われて気になって気になってしようがなかったから、4時間目をサボって屋上に来た。

「何があるちゅーんや?」

不思議に思いながらも俺は見つからへんで、屋上全体を見ることが出来る給水タンクの上で時を待つことにした。4時間目が終わるチャイムが鳴る。暫くしてからドアが開いた。

誰が来たん?と思い、覗いてみると、永藤 徠歌。俺をここに呼んだ張本人や。だが、俺に話があるちゅーわけでも無さそうや。

あいつは面白いものを見せてあげるから≠ニ言っただけや。おもろいもんちゅーんは何や?ここは・・黙って様子見とこっ。

そう思った矢先、永藤がこちらを見たから素早く身を隠したつもりやけど、バレてしもうたかもしれへん。バレたからどうちゅー話やないんやけど、見つかったらあかん気がすんねん。

そんなことを思いながらボーっとしよると、また、ドアが勢いよく開いた。

「良いもの見せてくれるって自殺のことー?それとも何?私に付き落されましたー。なーんて、言うつもりー?」

そう言った人物の声に驚いた。顔を見んでも誰だか分かる。今まで散々、話して来た。俺等が信じて来た人物やから。こんな嘲笑うかのような声、訊いたこと無い。

なぁ、美姫?自分、俺等を騙しよったんか?

真実を受け止められない俺に現実は待ってくれない。

「貴女には訊きたいことがあったのよ。前々からねっ。・・・・・何故、こんなことする?」

「こんなことぉ?美姫、何の事だか分かんなーい。」

「惚ける意味あるのかな?私や軌翠さんにして来たこと、忘れたわけじゃあるまい?私達を嵌めて楽しい?」

「・・・ふんっ。あんた達が美姫のものに手ぇ出すからでしよう?当然の報いじゃないのぉ?景吾もテニス部も、カッコいい人は全員、美姫のものなんだからねっ!?」

「・・・っ」

美姫、自分そんな風に思うっとたんやな。こんな美姫始めて見たわ。今まで騙されとったんや、俺達は。・・・そして・・本当のこと言うおった軌翠をイジメて・・・信じんでイジメよった俺達は最低や・・・。堪忍なぁ・・・茜。俺は本間愚かやなぁ・・・。

久しぶりに流した涙はしょっぱかった。

俺はもう迷わへん!これからは茜を永藤を守るんや!その前にちゃんと謝らんといかんわ。

そう思った瞬間だった。

「・・・きゃああああぁぁぁぁぁぁーっ!?助けてぇ、殺されるうううぅぅっ!」

美姫・・・いや、東條の叫び声が聴こえたんは。

俺は急いで東條と永藤の方を見る。すると、視界に入って来たのは永藤が東條を落とそうとしているところや。良く目を凝らして見ると東條が永藤の腕を持って永藤が落とそうとしているようにみせとる。こうやって嵌めよったんやな、東條。

声を聴き、駆け付けとるのやろう足音が近付いてくる。ドアの前まで来たと思うたら永藤が動き出した。

一瞬、一瞬やった。一瞬のうちに永藤と東條の位置が入れ替わって永藤がそのまま落ちて、いった・・・。

俺は何が起きたんか理解するのが精一杯で動くことも声を出すこともできひんかった。

茜を・・・永藤を守ると決めた矢先にこんなことになるとは思っていなかった。後悔、絶望・・負の感情が俺の中を駆け回る。

何でや。何でなんや。守る決めたんに・・・何でこうなってしまうんや。嫌なことは立て続けに起こる。いつもそうやった。嫌なことは続くもんや。覚悟せなあかんのや。

俺の心を映し出したかのように空は暗くなる。雨雲が太陽を隠す。俺の道を隠すかのように―。今にも雨が降り出しそうだ。

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