近付いてきた景吾に目で、後ろ、と伝えると景吾はチラッと後ろを確認した。東條を見た瞬間、あぁと納得したのか、私にあわせるように抱き締めてくれた。
「キスするふりしてくれないか?」
景吾に寄り添い、東條には口元が見えないようにして囁いた。それを聴いた景吾は私の顎を持ち上げ顔を近付けてくる。そして、東條にキスをしているように錯覚させる。その様子を見ているか確認すると東條と目があった。
さぁ、どうする?このままじゃ、貴女の大好きな景吾が私に釘付けだ。今日中に仕掛けてこないと命取りになるかもしれないよ。ふふっ。私からチャンスをあげるよ、東條。
東條はいつの間にかその場から居なくなっていた。
「行ったみたいだな。」
「・・・あぁ。」
私の言葉で後ろを確認した景吾も頷いた。
「後は東條を昼休み、屋上に呼び出して、忍足に本性を見せるだけだな。」
「そんな上手くいくのか?」
東條が行ったであろう方向を見て言った言葉を景吾は聴いていたみたいで、そんなことを言って来た。そんな景吾を見て、さぁ?とだけ言うとまた、歩き出した。もう、皆集まってきている頃だろうからと。しかし、まだ、その場に立ち止ったまま、動こうとしない景吾へ首だけ振り向き、行こうと促すため、口を開く。
「もう、皆集まっているだろう。部長である景吾が遅れたら示しがつかないでしよう?」
ニコッと笑うとあぁ、と言って景吾も歩き出した。
――――・・・
東條 Side
テニスコートに向かう途中、景吾の姿が見えた。
やったーっ!朝練前に景吾に会えるなんて、嬉しいっ!
そう思い、嬉しさのあまり、周りが見えて無かったわたしは近くに行くまで気がつかなかった。永藤 徠歌が居ることに。それに気付いたのは結構近くに来てからだ。
何でまた、あいつが居るのっ!?景吾は美姫のモノよっ!
そんなことを考えていると景吾が徠歌を抱き寄せて、キスをした。あまりのことに驚き、目を見開いていると徠歌と目があった。残念でした。景吾は私のものよ≠ニ言っているみたいに勝ち誇った顔をしている。
なんなのよーっ!?あいつ!景吾も何でそんな奴を見るの?!何よ何よ何よ――っ!イライラが募る。早くあいつを潰したいっ!覚悟しなよっ!永藤 徠歌っ!