徠歌 Side
忍足が部室へ行くのが見えたので、待ち伏せた。私の顔を見るなり、目を背けたから、忍足はまだ、全てを知ったわけじゃない。東條の本性を見たわけじゃないのだから、迷っている。何が正しいのか。私達が仕事をしているのは今見たから分かったはずだ。だが、これだけじゃ信じたくないのでしよう?軌翠さんを裏切って傷付けたのだから。これを認めてしまえば、自分の犯した罪まで認めなければならない。だけど、ここまで来たんだ。逃げる事は許さない。チャンスを作ってあげる。これを逃せば、どうなるかなんて私も知らない。依頼とは関係なく貴方を心から傷付けてしまうかもしれないから・・・。
「だから・・・このチャンス、生かしな。そして、前に進みな。」
忍足が行ったであろう部室の方向を見てそう呟いた。
そうは言ったもののそのチャンスを作らないとな。そう思い、そのチャンスを作るべく、校門の前へ行こうと歩き出した。朝練の準備はすでに終えていた。後は部員達が来て、練習できる状況だ。
東條を上手く怒らせ、私に何か仕掛けさせる。否、怒らせるだけでもいいか。東條の大好きな景吾を使って上手く煽る事が出来れば、私からの呼び出しでも簡単にのってくれるでしょうね。問題はタイミング良く、東條と会える事だな。
そんな事を考えながら歩いていると校門に着いた。校門の横の壁に背を預けながら景吾が来るのを待った。朝早くとはいえ、朝練がある部活の人達は今、登校している。勿論、テニス部もだ。校門を通っていく生徒からは罵声の声が飛び、周りではひそひそと話をしている者達までいる。ひそひそとは言ったものの私に聴こえる声で言って来るから違うだろうけど。
そんなことを思っていると私の前で大きな車が止まった。お金持ちの学校なのだからリムジンに乗って来る者もいるだろうな、と頭の片隅で考えていたら、そこから降りて来たのが景吾だったから正直、驚いた。
「け、いご・・?」
驚いた顔をして景吾の名前を呼んだのが景吾には驚くことだったらしく、一瞬目を見開いた。だが、すぐにいつもの表情に戻ると私に近付いて来た。
「徠歌、どうしたんだ?あーん。」
「準備終わって、暇だったから景吾迎えに行こう、かな・・・って思って・・・迷惑だった?」
「そんなことないぜ。」
「良かった〜・・・」
上目遣いで見詰める私を見て、景吾はふっと含み笑いをした。
「それじゃ、行くか。」
その言葉にうん!と頷き、歩き出した。景吾は私の小幅にあわせて歩いている。
「忍足が真実に気付き始めてる。」
歩いている途中、小さい声で現状報告をする私は景吾の横顔を見て見る。すると、景吾はやっぱりといった表情をしていた。
「なーんだ、気付いてたんだな。」
「あぁ。あいつが部活中にぶつぶつと独り言を言ってたんでな。もしかしたら、と思っていたんだ。」
「ふーん。・・・だけど、まだ迷っているみたいだな。本当に悪いのはどっちなのか慎重になっている。」
「・・・」
景吾は黙って私の話を聴いている。
人気が無いテニスコート付近で私は足を止める。それに吊られて、景吾も足を止め、こちらに振り返った。
だから・・・、と深呼吸して続けようとしたら殺気を感じ、そちらを見ると、私を凄い形相で睨んでいる東條の姿が見えた。
ふふっ。運が良い。主役の登場だ。
そう思い、誰にも気付かれないよう静かに口端を上げた。
「・・・け、いご・・・」
先程までと違い、弱々しく名前を呼ぶ私に疑問を感じた景吾が私の近くに来た。
「おい、どうし・・」
景吾の声を遮り、東條に気付かれないよう口元に人差し指をあてる。そしたら、分かってくれたみたいで、言葉を途中で止めた。