そして世界が色づいた

あるアパートの一室にて。
ベッドの上には女が仁王立ち、彼女に背を向けるようにして勉強机に向かっている男。


「宣言するぞ!」

「おう」

「私には!」

「………」

「好きな人がいます!」

「…………」

「キャッ言っちゃった!」

「……それだけ?」

「それだけです」

「…郁、」

「なんだい祐ちゃん」

「それだけのために俺の部屋にあがりこんだのか?」

「ご名答」


郁と呼ばれた女は我が物顔で本棚を漁っている。

ここは祐ちゃんと呼ばれた男の部屋である。祐ちゃんというのは郁が小さい時からの呼び名で、本名は祐司と言う。郁と祐司はそれぞれの両親も幼馴染であるため生まれた時から一緒にいるも同然だった。

大学生になった今でも郁は祐司の部屋にあがりこんで今のように勝手に漫画を読むのだ。


「お前課題は?」

「もう終わった」

「文系は楽だな」

「理系は大変だねえ」

「理系じゃなくて商業な」

「私文系なんでわかりませーん」


相手が郁なので祐司も遠慮せずに思ったことを口にする。大学のサークルの同級生はちょっと祐司の口調がきついと思いがちなのだ。
それは祐司の外見が元からきつい印象を与えるのもあるし、落ち着いて論理を組み立てて話すから機械的にも見えてしまい、なまじっか頭がいいので正論ばかり吐くものだから大学での祐司のイメージはことごとくきついものとなってしまった。

だからといって祐司もそれを訂正することなく寧ろその方向で突き進んでしまったためいつの間にか大学の女子からは近寄りがたい人というレッテルが貼られてしまった。

同じ大学だが普段大学では顔を合わせることもないこの幼馴染は祐司のこの話を友人から聞いて腹を抱えて笑った。
馬鹿にしているわけでもなく本当におもしろかったのだという。


「そういえば蓉子がさあ」

「うるさい黙れ」

「近所の社会人とつきあってんだって」

「うるさいって言ってんの聞こえた?」

「今私は話したい。お前が黙れ」

「…はあ」

「これだから祐司くんは困っちゃいますねえ、すーぐ怒るんだから」

「怒ってねえけど」

「ばかだねえ、冗談にきまってんじゃん」

「蓉子って郁と同じサークルにいた岡田?」

「うん。なんか最近付き合い悪いと思ったらあいつめ…!」

「こないだは誰だっけ?橋本だっけ」

「そうそう、留美ね。留美は…ええと、誰だっけな…あ、近所のお兄さんだって」

「小さいころからの憧れってやつ?」

「そうそうそんな感じ」


こうなってくるともう祐司も課題には手を付けていない。元来話好きな性格ではあるのだ。
くるりと郁の方を向き姿勢を崩した。


「あとは、ほら、小学校で一緒だった久美ちゃんいるでしょ?あの子正樹くんと付き合ってるんだよ」

「あいつら小学生の時から喧嘩ばっかしてたなあ」

「中学校は離れちゃったけど高校がまた同じ高校になったらしくてね、そん時に正樹くんが猛アタックしたんだって」

「意外だなあ」

「こないだ偶然駅で二人に会った時に聞いた」

「へえ」

「駅に行った時だって本当は蓉子と遊ぶ約束してたのに彼氏できたからってキャンセルされちゃって…男ができると女は変わっちゃうんだわ」

「お前は?」

「は?」

「郁は男作んねえの?」

「え?」


郁は本気で訳が分からないという顔をしている。祐司にしてみればそっちの方が訳が分からない。
最近友人の彼氏状況ばかり話すものだからてっきり自分も早く彼氏がほしいと思っていたと祐司は思ったのだ。


「だから、郁も彼氏つくりたいんじゃないの?」

「え、なんで?」

「だって最近お前友達の彼氏状況しか話してない」

「あ、あー、はいはい。いや、私はもう居るしなあ」

「え、居たの!?」

「うん」


正直な話、郁に限って彼氏なんていないだろうと思っていた。でなければずっと自分と仲良くするはずがないからだ。
だがしかしそんな祐司の思いを裏切って郁はいけしゃあしゃあと彼氏の存在を肯定したのだ。
これは少なからず祐司にとってはショックな話である。


「…居たんならこんなとこにいないでさっさと彼氏と仲良くしてればいいだろ」

「やだ祐ちゃんったらすねちゃってかーわいー」

「うるさい」


なんだかんだ言って祐司も鈍感で、なぜ今自分がこんなにつまらない思いをしているのかわからないでいた。
彼氏がいると言った郁の笑顔にも妙にいらだつし、同じくらい焦る。

だがしかし、次の郁の言葉に祐司の頭は考えることをやめることになる。


「………私みたいのに付き合ってくれる人なんて、祐ちゃんくらいしかいないでしょ」

「え、それって」

「私は、今までずっと彼氏って祐ちゃんのことだと思ってたけど」


今までのいらだちやあせりが無くなって目の前がすっと晴れた、そんな気がした。



そして世界が色づいた


*キウイベア様へ提出作品


あとがき
トラウマです。間違えました。スランプです。どうしよう!
なんとか頭をひねり出したいわばスランプ脱却を狙った作品です。もうなにがなんだかw
本当にすみません…

途中まで書いててよくわからない話になったり前に自分が書いたことある話になったりいろいろあってこうなりました!

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