PM 4:00



名前は今、手塚のマンションに向かっていた。奏子の言葉で決心して、思い立ったが吉日とばかりにその足で手塚に会いに行こうと思ったのだ。先程電話した時には繋がらなかったのだが、週末は夕方に練習を終えて一度マンションに戻ってくることを知っていたので部屋で待たせてもらうことにしようと考えていた。

「え・・・?」

見慣れた手塚のマンションが見えてきた時ふとマンションの前に見覚えのある人物が立っているのを見つけて、名前はぴたりと足を止めた――なぜ彼女がここにいる?――心臓がどくんと嫌な音を立てた。立っていたのは、先日居酒屋で見かけた例の女性記者だった。なぜ?どうして?そんな言葉ばかりが頭の中をぐるぐると渦巻いていて、その場から動けなくなった。女性記者はしばらくそこに佇んでいたが、一度駐車場を覗くとエントランスの方へ歩いてゆく。あの日この記者が手塚に好意を抱いていることを悟った名前には、彼女が手塚の部屋に向かおうとしているとしか思えなかった。

「――・・・」

名前は弾かれたようにくるりと踵を返して、もと来た道を引き返した。心の中に渦巻く靄が色濃くなる。動揺を隠せなかった。なぜあの人がここにいるのだろう。密着取材というのは家まで入るものなのだろうか?否、そんなはずはない。ならば何故――もしかして――まさかそんなはずはないと頭を振っても、どうしても嫌な考えが浮かんでしまうのだった。手塚からの折り返しの電話がかかってきたのが夜になってからだったことも、名前の不安を煽った。

『名前、先程電話をくれていただろう。すまない、今日はずっと本社の方にいたんだ』
「・・・そう、なんだ」
『何かあったのか』
「、ううん、なにも」

部屋の中で膝を抱えながら携帯を握りしめ、名前は務めて平静を保ってそう言った。ずっと本社にいた、と手塚は言った。嘘であるわけがない。まさか嘘をつくわけがない...よね。今は自分にそう言い聞かせることしかできなかった。

「国光・・・」

大好きでたまらないのに、疑って、不安になってしまう――否、大好きだからこそ、愛しているからこそのことなのかもしれない。こんな気持ちになったのは、生まれて初めてのことだった。


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