PM 2:00



「――ったく、そんな事になってたのかよ。もっと早く俺に言え」

跡部のオフィスにて。腕組みをして向かいのソファに座る手塚に、跡部は整った眉を盛大に歪ませてそう言った。というのも、例の密着取材を担当している成田という女性記者の行動があまりにも目に余るので、とうとうそれなりの手段を取ることにしたのだ。

「今日は周囲の方々にインタビューするためですよ」

あの日――名前との約束がふいになってしまった後、居酒屋でその名前とばったり会ったあの晩の、成田の口実はこうだった。最初のうちは手塚がプライベートでの同行は控えてほしいと言えば渋々ながらも引き下がっていたのだが、この頃は跡部グループ本社の偉い方を味方につけ始めていたのだ。この時も、役員達に「まあまあ」と諫められ、結局成田は最後まで同席していた。これでは最初の条件とまるで違う。そこで手塚は、然るべき対応をすることを決めて跡部のもとを訪れたのである。...跡部曰く、ここまで黙っていたのがお人好しすぎる、もっと早く言えとのことなのだが。

「すまないな、跡部」
「いや、むしろ使えねえ役員共の所為で迷惑かけちまったな」

跡部の言葉の悪さは学生時代から健在だが、これでも専務として上に睨まれずにいられるのは豪快で確実な手腕あってこそである。手塚もそれが分かっているので、学生時代のようにいちいち窘めたりはしなかった。

「本日付で通達する。お前はもう相手にするなよ」
「ああ、分かっている」

一段落ついたところで、跡部はふと手塚を振り返った。

「手塚」
「何だ」
「...周りくどいことはやめて早めに決めとけ。面倒なことになるかも知れねえぞ」

手塚は何も言わなかったが、跡部が何を指して言っているのかは分かっているようだった。「ついでに外堀も埋めとくか?マスコミへの根回しは有名人の基本だぜ」「そこまでする必要が――」「だからお前は自覚を持てっつってんだろうが」「......」口を閉ざした手塚に呆れた表情をしていた跡部はふと真剣な面持ちになり、「それに」と続けた。

「これは名字を守ることにも繋がる」
「――・・・そうだな」
「あいつは一般人なんだ。しっかり守ってやれ」

何だかんだ、跡部は人を思える人なのである。

「言われなくとも一生そのつもりだ。感謝している、跡部」
「言うじゃねえの、手塚よ」

こうして拳をぶつけ合うのは、学生時代から変わらないやりとりだった。


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