PM 8:00



「まさかあの手塚選手と付き合ってたとは、驚いたな」

やはり高城に知られたのは非常に面倒だった。酒が回ってくるとテーブルに肘をつきグラスを揺らしながら、眉を上げた独特の笑い方で名前を見下ろしてくる。「”途轍もない彼氏”か...道理で俺に靡かない訳だ」他の先輩がさりげなく話題を逸らそうとしてくれていたし名前自身も相手にしないようにしていたのだが、「でもあの女はきっと手塚選手に気があるぞ」だの「放っといていいのか?」だのしつこく言われると流石に煩い。

「あれは恐らく記者さんですよ」

相手にしては逆効果なのに、ついムキになってしまった。しまった、と内心で顔を顰めても時既に遅し、「記者?」案の定高城は食いついてくる。

「...密着取材を受けることになったと言っていたので」
「ふーん?つまり、他の女と四六時中一緒にいるわけだ」
「仕事ですから」

さして気にしていないと態度に出しつつ「何か頼みますか?」話題を終わらせようとしたが、ドリンクを注文し終えると高城は再び話題を蒸し返す。「嫉妬とかするタイプじゃないんだ?」「――・・・」仮にも上司だというのに、内心でかなり失礼なことを考えてしまう。前の上司の時は、なんて比べるのは良くないとも分かっているのに。

「いえ、別に」
「それって嫉妬してるように見えるけど」

名前はとうとうため息をついてしまった。それでも高城には効きそうにない。相手にすれば逆効果だと分かっているのにいちいち反応してしまう名前の若さが面白いのか、「可愛いね」と余裕の態度だ。

「...お互い社会人なんですから、何でもかんでも束縛するわけにはいかないでしょう」
「ふーん、俺はそうは思わないけど」

灰皿を引き寄せた高城は眉を上げてにっと笑いながら「ま、君も男達と飲みに来てるんだからお互いさまか」と言って煙草に火を点けた。軽い女だと言われているような物言いに名前はやはりむっとして、「連絡は入れてありますので」と言い返してしまい、「じゃあ向こうからも女と飲むって連絡きたの?」と返されると思わず言葉に詰まってしまった。

「...きてないんだ?」
「、知らなかっただけかもしれないでしょう」

そうは言いながらも、高城の今の言葉によって名前の心の中に小さな靄のようなものが渦巻いたことは間違いなかった。普段ならば絶対に相手にしなかったはずなのに今日はこうしてまともに受け答えをしてしまったのも、ムキになって余計な情報を与えてしまったことも、もしかしたら名前自身の意図しないところで手塚に対して”なぜ知らせてくれなかったの?”と感じてしまっていたからなのかもしれない。目の前でゆらゆらと揺れる高城の煙草の煙が、今の心情を表しているようだった。


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