くすぐったくて、嬉しい



「名前、見たわよ。柳くん、名前と色違いのストラップ付けてたじゃない」

次の日、練習が終わって寄り道しようと寄った喫茶店で、向かいの席に座る栞乃は身を乗り出してそう言った。「昨日はどうだったの?全部言うまで帰さないから」「シャイな宇佐見さんには申し訳ないのですが、私も気になります」「柳生くんまで・・・」二人が運ばれてきたケーキにも手をつけずに聞く姿勢でいるので、名前は仕方なく柳と出かけた日のことを話した。

「なるほど、柳生くん、名前も隅に置けませんね」
「そうですね、三浦さん」

二人は芝居がかった口調でうんうんと頷いている。「そ、そういうのじゃなくて、ただの成り行きだよ」「うーん?何とも思ってない人とお揃いのストラップを同じ場所に付けるかしら」栞乃も柳生も非常に楽しそうな顔をしている。名前は栞乃の言葉の意味にどきっとしてしまったが、「本当に大した意味はないんだよ」と慌てて否定した。

「でも顔が赤いよ?名前」
「もう、からかわないで」
「名前にそういう話があって嬉しいのよ」

「名前、柳生くん以外の男の子と関わろうとしないから」栞乃は、名前が異性とあまり関わろうとしないのは、将来の相手がいることに起因していると気付いていた。今の言葉は言外に、「囚われるな」と言っていた。許婚がいたとしても恋をしてはいけない理由にはならない、たとえ途方もなく大きな宇佐見家の家長で血の繋がった父親でも、名前の人生を決めることはできない――それが栞乃の考えだった。

「のんちゃん、」

名前は少し諦めたような曖昧な笑みをして、栞乃を見た――と、ミルクティーを飲んだ栞乃は少しシリアスになってしまった雰囲気を一変させるかのように、ケーキに手をつけながら再び口を開いた。

「それで?まだ何か話してないことがあるはずよね」
「え?」

突然ぱっと切り替えるのでうろたえる。「私達に隠し事するつもり?」「そ、そうじゃないけど・・・」名前は、恥ずかしくて言えなかったことがひとつあったのだ。栞乃にはお見通しだった。「流石は三浦さん、宇佐見さんのことが何でも分かるんですね」紳士な柳生は栞乃が名前をからかいすぎるといつも微笑みながら止めてくれるのだが、今回ばかりは助けてくれるつもりはないらしい。名前はじわじわと頬に熱が集まるのを感じながら、それでも平静を保って何でもないことのように言おうとしてメニューを捲りながら口を開く。「・・・帰る時にね、」「うん」「ええ」

「――連絡先、交換したの」

メニューで隠した顔は、湯気が出そうなほど赤くなっていた。


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