AM 10:00



「手塚、準備は進んでんのか」

跡部グループ本社に来ていた手塚に、跡部はふとそう尋ねた。「跡部に店を紹介してもらったお陰でな」中学時代は互いに高みを目指すライバル同士という関係だったのだが、今では気さくに接することのできる旧知の仲といった関係である。「良い店だろ」「ああ。奥まで通される必要はなかったが、とても丁寧な対応をしてもらった」「あん?」それまで互いに目を合わせることなく会話していたのだが、ここで跡部は眉を寄せて手塚を見た。

「...お前、少しは自分が有名であることを自覚しろ」

僅かに首を傾げる手塚にため息をつく。そうか、こいつはこういう奴だったな、とは跡部の心の声である。「まあいい。サイズは間違えてねえだろうな?天然記念物のお前に一応言っておいてやるが、”薬指”だぞ」「俺は天然記念物ではないし、それくらい分かっている。問題はない」「は、どうだか――」と、向こうから女性がやってくるのが見えて、二人はすぐに口を閉ざした。そして何でもなかったような顔で、挨拶に応じる。

「それじゃ、今日もよろしくお願いしますね。手塚さん?」

語尾にハートが付いている。この成田という女性が、手塚が以前名前に話していた密着取材で手塚に同行することになった女性記者である。見た目こそ知的そうに見えるものの、手塚を見る目にはやはり色目を使っているような眼差しや下心が見え隠れしていた。跡部と別れてからの移動中も成田は同じ車に乗っており、心なしか距離が近くまさに”密着”である。手塚は成田から目を逸らし、ついつい密着されるのが名前ならば良いのになどと手塚らしくもない無意味な考えをしてしまうのだった。この女記者のことがどうにも苦手なのだ。

「成田と申します。よろしくお願いします」

最初は真面目そうな印象を受けていた。だから了承した。しかし取材が始まると少しずつ媚びるような態度が見え隠れし始め、だんだんとエスカレートして極めつけはプライベートでの跡部グループの役員との酒の席にまで顔を出す始末だった。役員を取り込んだようで、「プライベートでは同行しないはずですが」と眉間に皺を寄せても「お酒の席でのことは書きませんよ」とわざとらしい笑顔をするだけで帰ろうともしなかった。やはり、どうにも苦手だった。


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