手塚と彼女と、クラスメイト達



そもそもなぜ手塚のテロ行為が炸裂しているのかと言えば、その原因は告白に対する名前の返事にある。「名字が好きだ。俺と付き合ってもらえないだろうか」「え...?」それほど会話したことのないクラスメイトに告白されて困惑した名前は、やんわり言えば優しすぎる・はっきり言えば優柔不断で押しに弱い性格から「でも、手塚君のこと良く知らないし...」と言ったのだ。そうなれば「ならば俺のことを良く知ってもらうことにしよう」ということになり、ここ最近のテロリスト手塚に繋がるのである。

「貰ったストラップの礼と言っては何だが」

あの裁縫実習の授業での一件があった後日、手塚から差し出されたのは何とも可愛らしい栞だった。華奢なデザインのそれを手塚の男らしい手が握っているのは何ともちぐはぐな光景だが、ラッピングがされていないところなんかは手塚らしいと言えばらしい。「良かったら受け取ってくれ」と言われて流れで受け取ってしまった。

「名字の好みが分からず女子が好みそうなものを選んだのだが、趣味に合っていなかったらすまない」
「こ、これ手塚君が選んだの?」
「ああ」

ぱちぱちと瞬きをした名前は、少しの間をおいてからふっと小さくふきだした。ついうっかり手塚がこれを選んでいる様子を想像してしまったのだ。「どうした?」気に入らなかったか、と言いたげな顔で困ったように眉を寄せる手塚に、「これ、かわいいね」と困ったような笑みを浮かべて言った。

「気に入ったのなら良かった」
「でも、ほんとに貰っていいの?暇つぶしで作ったものあげただけなのに」
「ああ、是非使ってくれ」
「...ありがと」

二人の様子を見守っていたクラスメイトたちは「おお...」である。所謂”テニス部ファン”のような過激な生徒がおらず穏やかなこのクラスでは、手塚が名前に告白したことは最早周知の事実だった。あとは名前がどうなるかと野次馬半分ハラハラ半分で動向を見守る一同だったが、この感じを見るになかなかいい感じではないか。これはもしかしたらあるかもしれない、と皆思う。



「ねえ、名前は手塚くんのことどう思ってるの?」

名前の一番仲良しの友達は、昼休みの二人きりの空き教室でそう聞いた。「どうって...よく分からないよ。あんまり話したことなかったし」「でも、最近はよく話してるじゃない?」「うーんそうだけど」卵焼きをもごもご頬張りながら煮え切らない返事の名前に、彼女は向かい合わせた机の向こうからずいっと詰め寄った。

「いっそのこと付き合ってみたら分かるかもよ」
「ええっ?な、何言ってるの、のんちゃん」

頬を赤くしてパックのジュースのストローを咥えた名前に、のんちゃんはにやにや顔である。彼女もまた、他のクラスメイトのように手塚と名前の動向を楽しみにしている一人なのだ。無論名前が少しでも嫌そうな素振りをすれば止めるつもりではいるのだが、今のところそのような様子は見られない。寧ろ手塚に話しかけられた時の名前の返事が無意識のうちに親しげなものになってきていることに、何となくいい予感がしている。

「嫌いではないんでしょ?」
「まあ、それは...でも、そもそも手塚君が何で私なんかを好きになったのか分かんないし」
「聞いてみたら?」
「えっ?」
「聞いてみたらいいじゃない、本人に」

さらりと言ってのけられた言葉に「聞けるわけないでしょ!」とアタフタした名前だったが――

「あの、さ...手塚君は、何で私を...?」

――その後まんまと親友の思惑に乗ってしまったのは、また別の話

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