告白は突然に



「名字が好きだ。俺と付き合ってもらえないだろうか」
「え...?」

それはまさしく青天の霹靂だった。







「名字、おはよう」
「あ...おはよう、手塚君」

中庭で突然の告白を受けたあの日から、手塚は何かのスイッチでも入ったかのように名前に声をかけるようになっていた。これまではただのクラスメイトでそれ以上でも以下でもなかったのに、最近では朝の挨拶に始まり移動教室の合間や昼休み、放課直後など隙あらば名前に話しかけるようになったのだ。名前はこれを「テロ」と呼んでいる。不謹慎かもしれないが名前にとって平凡な日々を侵す手塚はテロリストなのである。

「名字、何を作っているんだ」

家庭科室にて裁縫の時間、やはり手塚は積極的に声をかけてきた。模範生を地で行く真面目な彼が授業中に話をするのは珍しいが、この時間は友達と教え合いながら進めても良いことになっているのだ。「うーん...適当に作ってみた」そう言いながら名前が斜め向かいに座る手塚に向けたのは、小さな名前の手に収まるサイズの猫のマスコットストラップだった。裁縫は比較的得意な名前は課題のものを作り終えたので、友達が先生に作品のチェックを受けている間暇つぶしに作っていたのだ。顔を縫っていないのでシルエットだけだが、レトロな花柄の端切れで作ったので適当に綿を詰め込んで縫ったにしてはなかなか洒落たものが出来あがってしまった。

「縫い目が綺麗だ。名字は裁縫が得意なんだな」

名前はもともとシャイな性格なのに、そう真顔で言われては照れるというより困惑してしまう。「そ、そうかな...」と目を逸らして猫のストラップをさっと引っ込めてしまうのだった。手塚はあ、と言いたげな目でそれを追う。名前が何となく居づらさを感じて友達よ早く戻ってこいと念じていると、再び声がかかる。

「それは自分用か?それとも誰かのために作ったのか」
「え?いや、特には」

「そうか」と納得しておきながら、手塚はまだじっと名前を見ている。と言うより、名前の手元のストラップを見ている。「ん?」視線が気まずくて控えめに首を傾げると、「っ、」と一瞬たじろいでから「その...名字が良ければだが、俺に貰えないだろうか」と言った。「これを?」「ああ」きょとんである。まさかそんなことを言われると思っていなかった名前はあからさまなきょとん顔をしてしまったが、もしかしたら隠れ猫好きなのかもしれないという方向に解釈した。そうだとしたら、日頃のキャラのこともあるしこれが欲しいと言うのに結構勇気が要ったはずだ、と。「うん、あげる」名前は友達からよくズレているだとか鈍いだとか言われるタイプだった。

「ありがとう。大事にする」
「どこかに付けるの?もしかして、テニスバッグとか」

名前としては、手塚があんまり大事そうにポケットに仕舞うので何とも言えない気持ちになったのを誤魔化そうとして軽いジョークのつもりで言った。しかしその後、彼はあろうことか本当にテニスバッグに装着してしまった。堅物部長のテニスバッグの片隅で揺れるその猫ストラップのせいで、部員に激震が走ったことは言うまでもない。

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