実写/メガトロン | ナノ
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New year's eve




New year's eve



12月31日。
さっきまでサンセットビーチは夕日に染まり、空と海をつなぐ雲はオレンジ色のホイップクリームで、湿気のない爽やかな暖かさを残すマジックタイムだった。それを肌で感じているのに、まだまだ実感がわかない。
いつもの年末年始は底冷えのする真冬のもの。しかし今年は(といってももう今年は終わるけれど)、そんな寒さとは無縁の天国に一番近い島に、メガトロンと二人で来ている。
提案をしてきたのは、彼の方だった。

『───年の終わりは俺に付き合え』

年末の予定は?という質問ではなく、命令。いつも連れ出される窓もない鉛だらけの拠点とは違う、まさかの展開。
予想もしていなかった。
メガトロンと、南国のリゾート地で、年末年始なんて!贅沢にもほどがある。今年の運、そして来年の運を全部使い果たしたようなそんなふわふわした夢のような感覚からなかなか抜け出せず、せっかくのリゾートにも正面にいるメガトロンにも実感がわかないまま過ごしているのだ。頭では分かっていても、適応するのにはしばし時間が欲しいらしい心は、不安でいっぱいだった。

「あ、焼いてみますか?」

しかしテラスでスペアリブを焼いている。
眼前にオーシャンビューを望めるテラスでバーベキュー。しかも二人だけで。生の野菜と肉がトレイにこれでもかと言わんばかりにざっくりと盛り付けられており、これで二人前というから驚きだ。それに南国特有の大雑把で大らかな雰囲気が滲み出ている。そして何度もいうが、その雰囲気に流されるまま、炭火で肉を焼いている。
体が勝手に。不思議だ。
メガトロンはただ静かに、そして興味深そうに焼かれていくスペアリブを眺めている。片手には汗をかいたグラスに注がれたエネルゴンが入った特製のギネスドラフト。日に焼けたヒューマンモードのごつごつした力強いその手では、けっこう大きいはずのグラスが小さく見える。

『…弱肉強食、か』
「え?」

肉から目を逸らさないまま、メガトロンが言った。しかしすぐ何かに気づいた顔をして、

『いや、貴様らに強弱はないか。差はない』

と続けた。
片面が焼けたそれをひっくり返す。

『俺がこの星で見た限りだと、お前達人間と他の食われる生物との違いは、強い武器をもっているかいないかという事だ』
「武器?」

焼けたスペアリブをグリルから引き剥がし、トレイにのせた。食べますか?と聞くと、メガトロンは一度だけみたものの、『いやお前が食え』と言った。

『どの動物も平等に頭は使う。頭の良さは個体差があるにしろ、捕食される方は生き延びるために逃げる』

もう一つのスペアリブをトレイに移し、ウッドチェアに腰掛けた。焼きたてでじゅうじゅうと音を立てている。
メガトロンはというと、天を仰ぎまるで水を飲むように豪快にギネスを流し込んだ。

『逃げる方も追う方も、生き抜く為に走る。お前達人間は、走らずに獲物を捕らえる。武器を使ってな』
「たしかにそうですね…」
『人間とは地球で最も卑怯な種族の事を云うのだ』

スペアリブを見つめた。
なぜかおいしそうに感じなくなった。
食べていいのかな、という気になってくる。

『だがそれはお前達の戦利品で、この星で一番合理的に頭を使った結果だ』
「……」
『生き残るのに、哲学ぶって手段を選ぶ必要はない』

褒められたのかな、それって喜んでいいのかな。

『それでも俺達のような進化した種族から見れば何もかもが滑稽でしかないがな』
「…」

やっぱり褒められたわけではないらしい。

『まあいい、どんどん食え』

目の前のスペアリブを見つめ、それからかぶりついた。美味しい。
食べているこちらを見て、メガトロンは何故か愁のある笑みを浮かべた。

「……」

ちょっと恥ずかしくなった。

『何にしろ俺がこの地球諸共支配しサイバトロンを救う日は近い』
「……」
『ここでは最も進化した生物のつもりだろうが、人間は奴隷でしかないのだからな』

その人間、と形容されるなかに、自分も入ってるのだろうかと、ぼんやり考えた。気がついたら、メガトロンのギネスは二杯目が終わりそうだった。

「…じゃあ、その日がくるまで時々こうやってお話してくださいね。もっと飲みます?」
『……』

グラスを受け取ろうと手を差し伸べ、笑顔を作り立ち上がると、何を思ったのかメガトロンも立ち上がった。

「え?」

差し出した手を引っ張られた。
背中に力強い胸がぶつかり、抱きとめられた瞬間、ふわっとギネスの香りがそのまま風になって鼻先を掠めた。

『お前のその無欲さを、俺は気に入っている』

不意打ちもいいところだ。胸が高鳴る。早い鼓動は波打ち、空気を伝ってきっと背中にいるメガトロンにリアルタイムで届いているはず。テラスには、パチパチとグリルの中の炭が爆ぜる音と、静かな波音と、風の音だけがある。

「あ、でも私、欲だらけです」
『ん?』

上気した頬と、メガトロンの冷たい頬がふれた。もっと心臓が締め付けられた。あのギネスビールを持っていた大きな手で心臓を鷲掴みにされている気分だ。

「もっと…会いたいし、自分だけ助けてくれたらいいのにな、とか、さっきちょっと思っちゃいました」

日が沈んでも暖かさの残る外気と開放的な空気に、つい本音も出てしまう。

『…愚か者よ』
「ん!?」

なんに対する愚か者、か分からずに首を傾げる。本音を言っちゃった事に?それとも、助けてくれたら、のくだりの本音自体が?

『何の為に俺がお前をここに連れてきたと思っている?』
「あ、え?それは…」
『……』
「解りませんごめんなさい」
『……』
「…すいません、自分でもなんで一緒にいられるのか分からなくて」
『お前の本音を聞く為だ』
「……」
『虫けらだが、お前の本音は面白い』
「…お、面白いんですか?」
『さらけ出すことだ』
「……」
『共に過ごしたい時は呼べ。思った事は反転させずに口に出せ。お前の本音までは察知できんからな』
「そんな…」

そんな事を言われたら、期待してしまいます。いろいろな事を。

「それは、奴隷にしたい虫に言う事じゃないんじゃ…」
『…黙れ』
「ごめんなさい」
『愚か者よ、素直に喜べ』
「喜んでます!本当に!こんな…」

見下ろしてくる真紅の瞳と自分の目がかち合った。

『では黙って受け止めろ』

顎に丁寧に添えられた指先が触れるだけで頭の先から爪の先までとても甘くて苦しいものに連れていかれる。唇が触れると頭が真っ白だ。

唇が触れた瞬間に鐘が鳴った。
他のテラスからは、新年を祝う歓声が聞こえる。
思わず目を開いた。

「…あ、…新しい年になったみたいですね…」
『せいぜい喜べ、それも今年までだ人間共よ』
「!」

見つめ合う。

『…まあ、新たな年を祝う地球の独特の文化は嫌いじゃない』

思わず微笑んだ。

『…なんだ』
「大好きです、メガトロン様!」
『……貴様のタイミングがいまいち分からんな…』
「今そう思ったから、そう言っただけです」
『……』

もう一度、一度目よりも優しいキスをされて、彼に抱えられ部屋に入った。
もっと素直に、会いたかったですとか、恋しかったですとか 、たくさん触れ合いながら言わされてしまう時間がくる。

まだ寝るには早いし、年は明けたばかり。

貴方が私を選んでくれた事、
貴方の進む道が正しくても、間違っていても、どんな風に進んでも、ずっと信じている。
それが、たとえ全ての人類を敵にまわす結果になったとしても。

2012/01/03
log
で、どこの島なんでしょうね