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■□アルタイル

七夕/リクエスト
「大気と自然と音楽と」を引きずったお話。ちょっと番外編連載から設定を借りた部分もあります。







リペアが多い日は、もちろん終わるのが遅い。リペアルームから部屋までは、トランスフォーマーにとっては短い道のりでも、人間にとっては遠くて長い。基地に入って最初の方は、1日が終わってくたくたの体を引きずって帰っているのにラチェットやホイルジャックが見かねて送ってくれていた。それがいつの間にか色んなメンバーが送迎をかって出るようになった。

『それで?最近はどうなんだい?』

今日送ってくれているのは、ハウンド。

「何が?」

帰り道(といっても、基地内の巨大な通路だが)、気さくに話しかけてくる地球贔屓の彼が投げかけた質問に、思わず首を傾げる。

『何って、マイスター副官のことさ』

思わず視線が宙を泳いだ。

「あ、あー…、うん。仲良くしてる」
『そうか。いやあ、羨ましいなあ』

副官の事を聞かれるのは正直、苦手だ。どんな顔をしていいのかわからない。あの日に、副官に《私では駄目かい?》と言われた。それまで司令官の優しさとか、強さだとか、今考えればそう、恋というより憧れに近いものを持っていて、今思えば恥ずかしいが副官に相談していた。
そしたら思いがけず、副官が王子様だったことに気がついたのは、そんなこんなで取り乱してしまった後だった。
今は、どうしようもなく副官が好きなんだけれど、副官はそうじゃないみたいだった。だから、どんな顔をしていいのか、わからないのだ。
















同じ基地にいるのに、一週間、話をしていなかった。
すれ違ったり、作戦を話したり、そんな事で顔を合わせても、話し掛けようとしたら既に居なくなっていたりする。
ハウンドから降り、走り去る彼を見送って、部屋に入る。スライドドアの音も心なしか元気がない。
普段から冷たい性格なら不安にならないが、副官は超がつくくらい優しい。
だから何故避けられているのか、あの時自分じゃだめか、と言ってくれた言葉は嘘だったのか、何なのか分からなかった。クリスマスには、イルミネーションを見に行った。
それも嘘みたいに遠い出来事に思えた。
色々ゆっくり考えたいけれど、くたくたなのも事実。通信機を枕元に置いた後、シャワーを浴びた。
浴びながら、それでも副官のことを考えた。









シャワーを浴びた後、部屋着を着ている時にパーツクローゼットからはみ出した薄い紙切れが目に入る。
何だろうと思い、髪は濡れたまま、タオルを首に巻いてそこに向かった。

クローゼットの間からはみ出していたのは、短冊だった。
ウルトラマグナスとグリムロックが、クリスマスの飾りを間違えて短冊を買ってきた。クリスマスに季節はずれの願い事を、みんなでしたっけ。
時々笑ったりして、それを眺めた。
みんなの願い事を読みながら、あることに気がついた。

そういえば、私、書いてないかも…












『こんなもんかな』

目の前の通信記録をしっかりとインプットする。
この一週間、とても忙しかった。
セイバートロンにいる仲間との交信記録から始まり、報告書の作成。

とりあえずひと段落ついて、気がついたらもう7月だ。

…そういえば、レインの顔を見ていない。全然。最近部屋に送ってもいない。
時計は、深夜の1時になろうとしていた。

『………』


一度躊躇したものの、とりあえず通信機のボタンを押してみた。

…レインからの応答はない。

やはり寝ているか、思った。

『………』


トランスフォームし、深夜のひと気のない基地の通路を走り出した。

眠っている彼女の顔だけでも、何故か今、無性に見たくなったから。






**




彼女の部屋のセキュリティを解除する前に、人型にトランスフォームした。ガシャガシャと歩く音が聞こえたら、多分彼女は起きるだろう。
シュン、と小さな音を立てて、彼女の部屋に繋がるスライドドアが開いた途端、部屋の電気が点けっぱなしになっていることに少しだけ驚いた。

『起きてるのか?レイン…』

小さくそう言っても、返事はない。
ベッドを見た。そこにもいない。

『レイン?』

辺りを見回すと、部屋の最奥のパーツクローゼットの扉を開けたまま、薄着で小さく身体をたたんで、丸まってすうすう寝息を立てている彼女を見つけた。

『こんな場所で…だめじゃないか』

よほど疲れていたんだな、と思って彼女を眺めると、僅かに髪が濡れたままになっているのに気がついて、慌ててシャワールームから乾いたバスタオルと、ベッドからブランケットを取りに行った。
ブランケットにくるんでベッドに抱きかかえて連れて行くために、しゃがんで彼女にふれようとしたとき、彼女の手のひらから、ころんとペンが落ちた。

『?』

今までレインしか見ていなかったので気がつかなかったが、彼女の周りには小さな紙切れが散乱している。
よく見ると、短冊だった。

『…クリスマスの時のか』

仲間たちの願い事(時々願い事じゃないのも混じっている)が散らばっている。
レインを見た。
これを見ながら、いつの間にか彼女は眠ったんだろうか。
思わず微笑んだ。

短冊を寄せ集めているときに、ふと、そのうちの一枚が目に入った。






"明日か、その次でもいいから、副官が話をしてくれますように"


何故、
今さっき、書いたのか?

『─レイン』

ゆっくりと、彼女をブランケット越しに、抱きかかえる。
彼女は、眠りながら、泣いていた。


『…なぜ…』


レインの開かれた口が、泣きながら、あやふやに寝言を言っている。


「…マ…イ…スタ…」


胸の底からせり上がる声にならない気持ちを、どう処理していいのか、わからずに、眠っている彼女を無心で抱き締めた。

レインは、その衝撃で、目を開けた。

「…?」

泣き顔の寝ぼけまなこに微笑んだ。
だがもう殆ど、微笑む余裕なんてない。

「ふ、副官!!」

ガバッと身を起こそうとしたレインを、抱き締めた。

『夢では私を名前で呼ぶんだね、レインは』
「!!」






抱き締められて、マイスターの顔は見れないまま、突然すぎる出来事に息が止まりそうだ。

「な、んで副官がいるんです…か?」
『願い事、しただろう?』

短冊が散らばった辺りを、マイスターの背中越しに眺める。は、恥ずかしい!!反射的に赤面した。

「あ、あの…」

密着していた上半身が引き離されて、向かい合う形になった。

『忙しかったんだ。悪かった』

ただ黙って、首を振った。
嫌われたわけではなかったと分かって、安心した。

『それにしてもこんな場所で居眠りなんて、朝までこのままだったら、確実に風邪を引いてたぞ?』
「あ、申し訳ありません…」


しどろもどろに謝っていると、体が反転した。抱えあげられている。


「えっ!」

マイスターがベッドに移動する。

「副か…」

ふわりとベッドに落とされて、マイスターの指が頬に触れた。
それから、彼は煩わしそうにブルーのバイザーを取った。

『…もう限界だ』

切羽詰まった副官のこんな声は、聞いたことがなかった。緊張する。

何が限界なのかは、分かる。副官が限界なように、自分だって限界だ。
迷わずに、触れた。


「…わたしも」


マイスターが、部屋の明かりを消した。

体が離れていることが、もう限界。

何度も何度も、優しいキスをくれる、彼の素肌に触れる。

触れ合う愛しい人の背中越しに見えるのは、

幾千の星が集まって柔らかな光をたたえた、星の川。


ふたりで 星の世界へ
いきましょう
あなたとならば 怖くない

2009/07/07
the Star Festival.
たちさまへ!