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■□ダークブルー

☆サイバトロン版の主人公で書いた単発の企画夢です☆



サイバトロン基地へ偵察に向かう。姿を変えて。
裏口に回り込み、テレトラン1のあるメインルームを目指す。
変形を繰り返しながら移動する途中、右の通路の先の部屋から音楽が漏れている事に気がついた。

ブロードキャストか?

コンドルを偵察に向かわせようとしたが思い直して、右奥の部屋へとその進路を変えた。

ブロードキャストなら自らの手で決着をつけたい。

スライドドアが開く。



「よし書けた」

レインは曲を聞きながら、気に入ったものの曲名を書き込む。集中していたので、スライドドアにロックをかけ忘れていたこと、それから侵入者がいることに気づいてさえもいない。

サウンドウェーブは拍子抜けした。部屋にいたのは、小さな人間の女だった。

『誰ダ』

レインは突然の背後から響く電子音の混じった声にひどく驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻し、あからさまに困った顔をした。いきなり入ってきたトランスフォーマーは見慣れないディープブルーの機体だった。

「そういうあなたこそ誰ですか?」

こいつか。サイバトロン基地に住み込んでいる人間の女というのは。
攫ってもいいが、メガトロン様への手土産になるとも思えない。
任務は、テレトラン1の持つ情報を盗み出すことだ。

それにしても自分を見て驚かない人間は初めてだ。サウンドウェーブはそう思って、彼女に近づく。

「侵入しゃ…」

少し慌てたように腕の通信機を押そうとしていたのが見えたので、腕を掴んで阻止した。

『止メテオケ』

流れている音楽だけが部屋を占領する。腕をつかんだ方と掴まれた方は双方とも無言で見つめ合った。
サウンドウェーブは、この曲に聞き覚えがあった。

「人が一番好きな曲を聞いてる時に邪魔しないでよ」
『…………』

腕を振り解かれて、サウンドウェーブは我に返った。

『オ前…何故恐レナイ』

いつもなら、愚かな人間どもはデストロンだと叫び誰かに助けを求める。

「恐れ?あぁ、デストロンだから?」

俺がデストロンだということは知っているのか。

「ここにいるみんなと一緒でしょ?派閥が違うだけで」

さらりと返されて、サウンドウェーブは黙ってしまった。

「それに、誰を恐れるかは私の自由でしょ?」

そう言って笑顔を返した彼女にますます戸惑った。

『何ダ、オ前…』

サウンドウェーブが返せる言葉は僅かだった。うるさいと捨て台詞を吐いて、一発打ち込めばこの女は命を落とすだろうが、そうしようという気持ちは失せた。誰かに笑顔を向けられたのは、生まれて初めてだった。

「サウンドウェーブ、でしょ?何しに来たの?」

名前まで知っていた。何故こんなに余裕なんだ。

『新タナ…エネルギー源ヲ調ベニキタ』

何故俺も素直に答える。今日は変だ。

「そっか。テレトラン1の所には多分、今司令官がいるよ」

穏やかな口調で答える。不思議な女だった。

「私は、サイバトロンの補修を手伝ってる見習いのレインっていうの」


─警報、警報、侵入者アリ─

テレトラン1の声が基地内に響く。

『フン、出直スカ』

勢いよく走り出したサウンドウェーブをレインが呼び止めた。

「出口、ここからが近いよ」

立ち上がって反対方向のスライドドアをレインが開いた。

『何故ダ』

サウンドウェーブが問う。

「酷いことしなかったでしょ?そのお礼」
『…………』

サウンドウェーブはレインの向こうにある扉へと急いだ。
すれ違いざま、

『綴リガ…、違ウ。CRASHEDダ』

と言い残したので、

「え?」

と聞き返したが時すでに遅しで、外に目を移した時にはもう、サウンドウェーブの姿は見えなくなっていた。

『レイン、大丈夫かい!?』

入ってきたプロールやコンボイに目を移す。

「はい、大丈夫です」
『何かされなったか?』
「はい司令官、通信を妨害されただけで、怪我もしていません」

レインは穏やかに答えた。

『良かった』
『気をつけるのだぞ、君も命を狙われる可能性はあるのだからな』

コンボイの言葉に頷くと、机に置いていた自作の曲目リストに目を移した。
休暇を取ってまで見に行こうとしている歌手の曲のスペルを間違えるなんて。
レインは先ほどの赤い目を思い出した。





クリスマスイブ。
心配そうな仲間たちに微笑んだ。

『あんな事があってすぐだ、本当に一人で大丈夫かい?』
『またデストロンに襲われたりしないかな?おいら心配だよー』
『ブロードキャストを連れて行ったらどうだい?』
「大丈夫、あの時はたまたま私の部屋に入ってきただけだし、今日は友達と一緒だし、送り迎えはみんながしてくれるんでしょ?それだけで十分!」

レインは明るく返した。

『そこまで言うなら大丈夫だろう。もし何か危険を察知したら必ず早めに救援信号を出すこと。仲間を近くに待機させておこう』

コンボイが念をおした。

「ありがとうございます」








送ってくれたプロールを見送って、会場へ急ぐ。

走りながら並木道のイルミネーションを楽しんでいたら、携帯が鳴った。

「もしもし?」
「─ごめーん!!今日仕事が入っちゃって行けなくなっちゃった─」

申し訳なさそうな友人の声に、レインは思わず立ち止まり、必要以上に大きな声で、うそぉ!?と返した。

本当にごめんね、を聖書を読むかのように繰り返し唱える友達に、とりあえず分かったと返して電話を切った後、盛大なため息がでる。

ライブを一人ではさすがにきつい。でも見に行きたい。このまま基地に帰るか、突っ走るかを迷っているところで、背後から声がした。



『…オ前、何シテルンダ』

落胆した視線の先に、青年は、立っていた。背は高く、バイザーは落ち着いた、赤。

ネイビーの髪は短い。

ジップアップのダークブルーのジャケットを着て腕組みをした彼は、全く初めて会ったはずなのに、その独特の電子音が混じったような話し方は、聞き覚えがあった。
前に会ったことがある気がした。

「サウンド…ウェーブ?」

目の前に迫ったライブ会場に目を移した後、視線をレインに戻した彼は、

『オ前モ、ライブニ来タノカ?』

と聞いてきた。

「え?も、って…サウンドウェーブも?」

静かに彼は頷いた。

「デストロンも、人型に変形できるんだね」

そう言ってまじまじと自身を見てくるレインに答える。

『本来ノ姿ダト騒ギニナッテ曲ハ聞ケナイカラナ』
「あ、一人?誰か一緒なの?」

サウンドウェーブは静かに首を振ると、

『コレダケハ、誰モ付キ合ッテクレン』

と付け足した。
レインが微笑む。

「私も、今友達にドタキャンされちゃったんだよ」
『どたきゃん?』

はあ、と笑いながらため息をついたレインの頬と鼻は、寒さで赤くなっていた。

『………行クカ』
「え?」

レインが目を丸くしてサウンドウェーブを見返した。

『…帰ルノカ?』
「ううん帰りたくはない」

レインはとっさに首を振って答えた。

『行クゾ』
「う、うん」

さっさと歩き出したサウンドウェーブの後ろ姿を見ながら、一番みんなに心配されてしまうような状況になった、と思った。
けれど明らかに、人型になったあの後ろ姿は、誰かを傷つけたりするためにここに来た訳じゃなくて、純粋に音楽を楽しむ目的でここに来たということが伝わってくる。
サウンドウェーブは無表情だが、穏やかな空気を持っていると思った。
安心して通信機にロックをかけた。

開演までの待ち時間は、お互いの事を話した。

『オ前ノヨウナモノ好キニハ、初メテ出会ッタ。アノ忌々シイサイバトロンヲ補助スルトハナ』
「サウンドウェーブもモノ好きじゃない?上司がメガトロンとか、怖くて仕事出来ないよ私」
『………ソウカ?』
「そうだよ」

自然と微笑むレインは、サウンドウェーブに初めて笑顔を向けた人間。
とても不思議な感覚だった。

『何故…』
「え?」
『オ前ハ…敵対シテイル存在ニ笑顔ヲ向ケルコトガデキル?』

またレインは、あからさまに困った。

「…考えたこともなかったなあ」

真剣に考え出したレインの表情を伺う。
人間は沢山見てきたが、こんなに表情を観察したのは初めてかもしれない、とサウンドウェーブは思った。

「人間にも、いい人悪い人、いるけど」
『?』
「最初からみんなと分かり合いたいなんて、思ってない」
『………』
「だけど、最初から警戒し過ぎて恐れていたら、色んなものを掴めずに終わっちゃいそうだから」

サウンドウェーブはレインの唇の動きを追った。こんな気持ちは初めてだった。

「欲張りに、色んな入口を広げておきたいってかん…じ…」

視線を逸らして懸命に話し続けたレインは、あらためてサウンドウェーブからずっと見つめられていることに気がついた。バイザーの奥は見えないけれど、そんな気がして我に返った。
気にしないふりをして続ける。

「みんなに比べたら寿命、そんなに長くないから、人間は。基本的にトランスフォーマーよりはるかに欲に弱くて、本当に、デストロンのみんなが思ってるみたいに、愚か者だと思うよ」

それを笑顔で言うレインは不思議だ。明らかに短命なのを諦めているのに、目は輝いている。
豊富なエネルギーを渇望している自分たちよりも遥かに強い気がした。

『オ前、変ワッテルナ…』
「サウンドウェーブに言われたくないよ、デストロンなのに人間のライブに普通に鑑賞目的でくるなんて」

レインが笑う。

『………今日ハ非番ダ』

レインがさらに笑う。サウンドウェーブのバイザーの奥のアイセンサーも、少しだけ綻んだ事にレインは気づかなかった。





ステージの下に、熱狂的なファンが集まる。並ぶのが遅くなり、後方のポジションを確保した。ワンドリンク制のクリスマス限定パーティーなだけあって、ライブハウスは飽和状態の熱気に包まれていた。

「ここだとよく見えないなぁ」
『前マデ行クカ?』
「ううん、そんな勇気ない私」

そう言って首を振ったレインが後ろの波に押される。

「あわぁっ」

よろめいたレインを、サウンドウェーブが受け止めた。

「あ…ありがとう」

ぱっと体を引き離したレインを見つめる。複雑な表情だった。

大音量のエレキギターの音と共に、興奮したファンの発狂したような声がこだまする。

視線がステージに集中した。

"merry Christmas!!!!"

レインが笑う。
サウンドウェーブも、一気に表情が明るくなった。二人ともステージに釘付けになった。

ライブハウスが揺れるような重低音に興奮を隠せない。

「来て良かった!ね!サウンドウェー……」

隣を見ると、サウンドウェーブの姿がない。

「えっ?…う、うぁっ」

観客に押されながら、ネイビーの髪の長身の彼を探す。

「サウっ…サウンドウェー…ブ…どこ?…!きゃあ!」

一気に心細くなって、観客にもみくちゃにされながら、彼を探した。泣きそうになった。


『レイン!!』

サウンドウェーブが気づいた時は、レインの姿はどこにもなかった。

カセットロンを出したくても、こんな場所では大騒ぎになる。
サウンドウェーブは現在地確認のスキャンをかける。が、人が密集し過ぎて通信機能がパンクしていることに気づいた。

『……!』

いてもたってもいられず、歩き回る。人型では、満足に動くことも出来ない。彼女が心配だった。

探している途中で曲が変わる。

サウンドウェーブは一度ステージを見た。
静かなイントロで始まった。

───今しかない。観客が動かず集中してステージを見ている、今しか。

素早くスキャンをかけた。

隅の方でもみくちゃにされて疲れきった表情の小さな彼女を、アイセンサーが捉える。

サウンドウェーブはごった返す観客をかき分けながら走り出した。
無心だった。こんな気持ちは初めてだった。
レインを、誰にも傷つけてほしくなかった。曲調は、一気にたたみかけるようなロックに変わる。

レインはぐったりして倒れ込む寸前、掴まれた手の感覚に驚いた。

『レイン!!』

電子音の混じる声が、曲と混じりあってぼやけた。

「サウンドウェーブ…」
『探シタ…』

顔が見えて、心底ほっとして、胸をなで下ろした時、視界が全てダークブルーに変わった。

大音量の曲は抱きしめられた腕の中で少しボリュームが下がって、代わりに小さな脈打つような電子音が聞こえた。

涙が出た。




『出ルカ』

抱き締められたまま力なく頷いて、会場を出た。階段に並んで座り、ただ黙ったまま、手を繋いでいた。
風は、さっきまでの熱気を全て飲み込んでいって、冷たかった。


『…マダマダダナ』
「え?」

放心状態のレインを見て、サウンドウェーブが口を開いた。

『アンナノハ序ノ口ダ』
「…ごめんね、初めてだったから」

少し申し訳なさそうに、笑うレインを見つめる。

『─こちらプロール、レイン、聞こえるかい?─』

通信が入ったと同時に、サウンドウェーブが立ち上がった。
通信機を繋がずに、レインがサウンドウェーブの腕を掴んで引き留める。

「私たちまた会える?」
『……サァナ』
「……そっか」

悲しそうな表情に変わったレインを、見たくないとサウンドウェーブは思った。

『………ソノウチナ』

腕から手を離したレインが笑う。

「今日はありがとう」
『………』

レインが立ち上がる。

「こちらレイン、プロール、どうぞ!」
『─終わったか?じゃあ行くよ!待っててくれ─』

通信機を切って、サウンドウェーブを見る。

『レイン』

ん?と微笑んで見つめるともう一度抱き締められた。包まれる電子音に、また安心した。

「サウンドウェーブ」
『?』
「メリークリスマス」
『………ダナ』

微笑んで、またね、と言うと、簡単に体は引き離れて、サウンドウェーブはもうこちらを見ずに、去っていった。
その後ろ姿を、ただ黙って、眺めた。


いつか、またふたりで、聞きに行けたらいい。
それは宇宙がひとつになった時なのか、違う未来なのか。

全てを消し去るようなあの重低音と、ダークブルーの腕の中がもう恋しかった。




2008/12/19
企画/Xmas 7days