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■昼下がりのできごと

ここはサイバトロン基地の談話室。メインルームのマスターコンピューター、テレトラン1に繋がる通信機以外に、新鮮で色鮮やかな花が花瓶に飾られている。
サイバトロン戦士の面々に、花を楽しむことを教えてくれたのは、人間である補修員のレインだった。
彼女の案で作られたカウンターには、トランスフォーマー達が座れる頑丈なスツールが何個も備え付けられて、エネルゴンサーバーも設置され、いつでもエネルギー補給ができるようになっていた。
この空間を作る前にレインが、カウンターだからみんなが語りたい時にエネルゴンを片手に話せるよ、と設計を担当するグラップルに説明をしていた。
無論、その予測は的中した。
夜になればいつの間にかみんなそこに集まって、色んな話をした。
空いている時は、昼間でも。
カウンターの向こうでは、いつもレインが笑って話を聞いている。
いつだったか、あのパワーグライドの恋愛相談を、とても親身になって真剣に聞いていたのを見たことがあった。
彼女らしいアイデアがしっかりと組み込まれたそのカウンターは、今やサイバトロン戦士にとっては欠かせない、コミュニケーションの場になり、談話室はいっそう明るくなった。
そんな一室に、今は自分とレインしかいない。
今日は政府から、新しい発電所の警備を任され、たくさんの仲間たちがかり出されていた。
そんな中、久しぶりの「非番」で、珍しく1人で読書をしていたレインとたまたま同室してしまったわけなのだが、いきなり出来た補修員として働く彼女との2人きりの時間に、些か戸惑っていた。
レインが足を組み直して、体勢を変え、ひとつため息をつく。
彼女用にあてがわれた、柔らかな合皮素材の小さなソファーが、その摩擦で軋む音が響いた。
この広い部屋にはあまりに不釣り合いな小さな彼女は今、その神経を一点に集中させている。
『何を読んでるんだい?』
躊躇しながらも、尋ねてみる。
「ん?あ、これ?すごい勉強になるんだよ」
ひらひらと小さな本が宙に掲げられる。素早くカメラアイでスキャンをかけると、裏表紙にチップ・チェイスと書かれているのが読み取れた。ああ、と思わず頷いた。
『チップ君の本だね』
彼女の目が大きく見開かれる。どうやら驚いているようだった。
「やっぱり知ってるの!?」
好奇心に溢れた彼女の視線をいっぺんに受け、戸惑った。
『知っているも何も、彼に助けられたことが何度もあったよ。一度なんて、セイバートロン星に降り立ってね』
「セイバートロン星に!?」
『ああ』
「凄い。私がどうあがいても追いつけない頭脳の持ち主だよ。彼の講義は全部とってて……、とても為になったし、何よりみんなと過ごした事を聞けるのが楽しかった」
そう言うとレインは、ゆっくりと笑った。
『確かに凄い頭脳の持ち主だね』
「そう言うパーセプターも、有名な科学者なんでしょ?」
『いやいや、ホイルジャックに比べたら私なんてまだまだ』
「謙遜しちゃって」
明るく、柔らかな声質は曇ることなく聴覚センサーに響く。
「ああ、でもアレだね。こうやってみんながいないと」
『ん?』
ふわあ、と派手に口を開けて、レインはあくびをひとつした。
「眠たくなるね…」
『そんなにつまらないかい?私といるのは』
眉間にシワを寄せて冗談混じりにつぶやいてみる。
一気にレインの目が見開かれた。
「あ、違う違う!!そういう意味じゃなくて。ごめんね」
レインは失敗した、と言わんばかりに取り繕った。
『はっはっはっ、大丈夫だよ。少し眠ったらどうだい?連日全員のメンテナンスをしているんだからそりゃ疲れるさ』
「あー…そうなのかな、じゃあちょっと部屋に戻ろうかな…」
自室に帰ろうと立ち上がった瞬間に、ふらりとよろめいたレインを反射的に抱き上げた。
「あ…ごめんパーセプター…」
『大丈夫だ、落ち着くまで一緒にいよう』
トランスフォーマーにとっては不安定なそのソファーに腰掛け、レインを膝の上に乗せてみる。
彼女の目を覗き込んで、自身の機能も使い調べてみる。
『うーん、大幅に鉄分が不足しているようだね』
「情けない…貧血とか…」
『鉄分か。サプリメントを作ろうか?』
「ううん…、大丈夫」
『じゃあゆっくりそのまま休んでいいから。気分がよくなるまで』
「ありがとう」と呟いたレインの頭を、思わず撫でている事に気づいた。
ま、まぁいいか。誰もいないし。


昼下がりの談話室に、あたたかくて眩しい日差しが降りてくる。そして自分の心も安らいでいくのを感じた。
(押すな押すな)
(おいらもみたい!!みせてよー!!)
(ふむ…)
(こいつはなかなか…)
(見ものだなぁ)
(あのパーセプターがねえ…)
(なっ!!お、俺のレインに何してんだあいつは…)
(別にレインは君のものじゃないだろうサンストリーカー)
(どわっ!!押しなさんな潰れるわい!!)
(うわ!!いたい!!おいらの足を踏んでるのは誰?)
(押すな!!)(((わ、わ、))
『『『わぁーーーっ!!』』』
『………ん?君たち何やってるんだい?』
この後潰されたミニボットの約三体を自分が訳も分からず修理することになろうとは、レインは知る由もなかった。
2008/10/20