G1/全軍 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

■当たりどころが悪かったらしい

☆リクエストで書いたものです☆





『異常なし、と』

慎重に警備状況を打ち込む。保安部長である自分のセキュリティーセンサーに今日も出番はない。至って平和、それが一番いいのだ。
午前中のサイバトロン基地はレインが来てからこっち、とても慌ただしくなった。朝のエネルギー補給、メンテナンス、その他諸々。
彼女達で言う「朝ご飯」は 、1日の活力となるらしい。妙な説得力がある彼女の言い分、だが実際のところ我々の機能上、朝エネルギーを補給しようが、昼にしようが、夜にしようが、関係ない。皆それを分かってはいるものの、彼女がそう言うとそうしてしまう。
メンテナンスをする小さな腕、ヘルメットの下からのぞく髪、我々とは全く異なる体の構造でありながら、体いっぱいで我々を助けるそのあたたかな存在感は、小さいながらも司令官のような絶対的なカリスマ性をもって、無意識のうちにこの基地を支配する。
みんな、彼女に首ったけなのだ。

けれど、自分は違う。
冷静に彼女を分析しているつもりだし、特別視はしないさ。

テレトラン1のメンテナンスを行う彼女の後ろ姿を眺めながら、そう思った。
急にくるりと向き直って正面を向いた彼女に、一瞬戸惑って、視線を逸らした。
午前中のメンテナンスが終わって今、皆は外で恒例の「マジバスケ」をやっている。司令官のトラブルならぬドリブルの音も、かすかにだが響いてくる。
基地には今、警備を任された自分とレインだけで、あとは誰もいない。

『どうした?』

さっきからこちらを向いたまま黙って見つめてくる彼女に、視線をはずしたまま声をかけた。両手にリペア器具を握りしめ、困惑している様子だった。

「ここのコードのつなぎ直し方が、わかんないんだけど…」
『ん?』

立ち上がり、テレトラン1のメインディスプレイに歩み寄った。

『どこ』
「ここ、さっきメンテナンスするために一度外したんだけど、最初のつなぎ方を忘れちゃって」

いつもラチェットがするから、と言う彼女に笑った。

『君にも分からないことがあるんだね』
「わかんないことだらけ!ラチェットいないと私何にもできない」

ラチェットがいないと、か。

『彼が好きなんだね』

かちゃ、と器用にコードをつなぎ直し調節をしながらさらりと尋ねた。みんなは何も聞きたがらないが、自分は彼女に対して仲間以上の意識を持っていないから、みんなが聞けないことでも感情に殺されることなく聞けるのだ。

「あ、うん。尊敬してる」

レインは軽く笑って、蛸足のように何本も連なっているコードを揃えながら、一本一本確認している。

『これでいいかな』

スイッチを入れると、いつも通りの電気の通ったテレトラン1に戻った。
胸をなで下ろしたレインから、笑みがこぼれる。

「うわあ、助かった〜!!ありがとうアラート!!」

かるく頷く。

『どういたしまして』

さらりとラチェットに対する尊敬の気持ちを表して、自分にも感謝の念をたおやかに返す。みんなが夢中になるわけだ。本当にいい子だ。

「これで全部完了かな」
『そうだな。セキュリティーセンサーにも異常はなかったよ』
「じゃあ…行っちゃう?」

きらきら、という言葉がよく当てはまるその瞳を輝かせ、レインは基地の入口を指す。バスケか。

『いや、俺はいい。警備もあるしね』
「え、行こうよアラート!」

指先を両手で引っ張るレインに微笑んだ。

『だめだめ、ここに残って、危険をいち早く察知してみんなに知らせるのが俺の仕事なんだ。レインは行っておいで、みんな待ってるよ』

レインは口を少しだけとがらせ、うーん、と言う。
ゆっくりと、引っ張っていた指は離されて、ため息をついた。

「…じゃあ私もここにいる」
『え?』

なんでまた、と尋ねると、レインは微笑んだ。

「アラートのセキュリティーセンサーがもし故障でもしたら、外のみんなに危険を知らせる人がいないと困るでしょ?」

思わず声を出して笑ってしまった。

『俺のは壊れないよ。そりゃ、ネガベイターの時は故障したが』
「うん、あれは事故だったんだよね?でも何があるか分からないし、一緒にいるよ」

そう言って微笑み、ブラウンの瞳はくるくると大きくこちらを見つめる。たまらずに視線を逸らした。見つめられると余計な事を考えてしまうからだめだ。彼女は人間。だいたい、特別視する対象じゃないし、自分はみんなとは違う。

逸らされたレインは、少し俯いて定位置に戻った。







アラートには、他のメンバーとは違い、一線置かれている気がする。
嫌われているとは違うけれど少しだけ他のメンバーに比べたら取っつきにくいような、そんな繊細さを持っていると思う。仕事は丁寧、正確にこなし、そつなく接してくれる。
人間に対して興味津々で、かまってくれるトランスフォーマーばかりではないということが、アラートと過ごしているとよくわかる。
その距離感は、友好を求めている人間からしてみれば、ある意味寂しくもあり、またある意味勉強になっている。
異種族の共存、という根底には、そんな課題が埋まるほど溢れているのだから。

そんな風に物思いにふけりながら仕事を続けていると、チリチリ、とアラートの方から放電するような音が聞こえた。
目を向けると、危険に反応するセンサーが、アラートのヘッド部分の両サイドで光っている。

『危険を察知した。センサーの反応だと、外ではなくこの基地の内部だ』

落ち着き払ってそう言ったアラートに、ただ黙って頷き立ち上がる。

「みんなを呼ぶ?」
『いや、いい。何か弱い反応だ』
「どの辺から?」

アラートの表情を覗き込む。
ゆっくりと冷静に分析している時の彼は、実はなかなか男前だと思う。非常事態の危険がある時に、何を呑気にそんな事思ってるんだと邪な念を振り払い、状況を飲み込む頭に切り替えた。

『ダイノボット達が待機している洞の奥だ』
「ダイノボットたちに偵察にいかせる?」
『いや、今外でバスケしてる、多分』
「じゃあ外のみんなにやっぱり知らせた方が」
『いや、反応は弱い。一人で充分さ。テレトラン1も反応していないということは、きっと大したことじゃないだろう』

アラートはそう言うと、トランスフォームして走りだそうとした。

「待って!!」

fire chiefと書かれた彼のサイドドアに手をかける。乗り込もうとしたら、アラートが制止した。

『いや、君は来るな』

寂しさを飲み込んで、笑顔を向ける。

「そんなに私と一緒にいるのがいやなの?」

皮肉をまじえたその言葉に、いや、そういう意味では、とアラートが取り繕っている間に、カウンタックに乗り込んだ。

『危険かもしれないんだぞ』
「そうそう、当たりどころが悪かったら暴走してしまうかもしれないでしょ?そうならないように、私がいるの」

アラートは、ラチェットの口癖を思い出し、引用した。

『全く、命知らずなお嬢さんだ』





洞に入り、進んでいくが、反応に変化はない。

「デストロンが潜んでるとか、ないよね?」
『ああ、だといいがね。レイン、降りてくれるかい?もっとよく調べなければ』

あ、うん!と答えて元気に飛び出した彼女の横でトランスフォームした。
まだセンサーは点滅を止めない。

『うーん、確かにこのあたりのはずなんだが』

カシャ、カシャ、と歩く自分の足音に、暗闇の中でバサバサッと何かが反応する。
レインはその音にびくっ、と反応し、少し涙目でついてくる。未だにティラノサウルスの化石が掘り起こされぬままその姿を留め、くり抜いた壁に封印されている。動き出しそうな陰鬱な雰囲気は、レインのビビり度を頂点まで押し上げ、あと一度大きな音がしたら多分、叫んでしまうだろうというくらいビビっていた。

『言わんこっちゃない、だから俺一人で充分だと言ったんだ!』

振り向いて、後ろで小さく震えるレインに声をかけた。

「はいすいません!…ごめん足引っ張っちゃって…」


どんどんあふれてくる寂しさを抑える。今朝はアラートから突っぱねられたり、怒られたりを繰り返している気がする。距離を取られるのは苦手だから、近づこうとしたけれど、彼はそれが鬱陶しかったに違いない。

「アラート私やっぱり戻るね!!」

そう言って笑って敬礼し、え、と言いながらアラートが振り向く前に、足早く来た道を戻った。

『あ、おい!レイン…』






追いかけようとしたそばで、カラッ、カラカラッ、と音がする。その場所を見やると、ちょうど雛が孵ろうとしている巣をアイセンサーが捉えた。

『おっ…』

この生命体に、センサーは反応しただけだったのか…
胸をなで下ろす。デストロンじゃなくてよかった。

小さな、小さな命が芽生えたこの瞬間の、この例えがたいこの気持ち。
なんだ、これ。
レインがブラウンの瞳をこちらに向けてくるときの気持ちに似ている。

レイン…、レイン、か。

なんだ、そうか。

俺もみんなと一緒か。

トランスフォームし彼女を追いかけた。









来た道を帰っていた。…はずだった。完全に…迷った。

「…はぁ」

これじゃランボルの事を笑えない。行きはよいよい、帰りはこわいのこの洞は、通信機の電波がはいらない。
アラートは大丈夫だったかな。
危険な目にあっていないかな。
ああ、バカなことしちゃった。

アラートは、優しいし、なんだかんだで連れてきてくれたのに、言葉だけに反応した子供じみた自分の行動を反省した。

「…失格だ…」

パラパラと粉のようなものが頭上から落ちてくる。

「え」

グラグラと揺れる頭上の岩が、崩れ、真っ逆さまに落ちてくる。

「いや…」

こんな所で死ぬのは嫌!!と逃げようとするが、絶対間に合いそうになかった。
反射的に頭を手で覆い、その場にしゃがみ込み、目をつぶった。

凄まじい落下音が聞こえ、とうとう終わってしまった、と思った。
さよなら、私の人生。
神様、ありがとうございます、サイバトロンと出会えて幸せでした。
プロールごめんね、助けてくれたこの命、アラートからちょっと冷たくされたくらいで逃げ出したから罰があたったんだ、もっと大事にすればよかった。
アラート、私、

あなたと仲良くなりたかった、

役にたちたかった、あなたの…







……あ?あら?まだ考えられる。えー、えーと、ん?痛くない、全然痛くない。
なんで?

覆い被さっていたのは、その身を呈して守ったアラートだった。苦しそうにしながら、その体に積み重なった岩をどけている。

『よかった間に合って』
「アラート!!」

こちらの無事を確認して、力なくがしゃりと倒れたアラートに抱きついた。

「アラートしっかり!!」










レインのリペアする音は心地いい。

「もうすぐ、ラチェットたちがきてくれるからね」

通信がつながってよかった、そう言いながらリペアするレインの声は少しだけ掠れているが、さっきの衝撃で視覚回路がやられたようで、はっきり見ることができない。

『すまないね』

レインは首を大きく振る。

「助けてくれてありがとう…」

洞の中は人間には熱いらしく、リペア器具も必要最低限しかなく移動手段がないレインは、出来ることが少ない、と嘆いた。

「ごめんねアラート」
『ん?』

彼女は涙声だった。

「邪魔するつもりもなくて、手伝い…たかっただけだったんだけど」
『わかるよそのくらい…』
「結局迷惑かけちゃった」

ごめんなさい、と言う声はさっきよりも震えている。
ああ、泣いてる君を見たいな。見えないのがもどかしい。
気持ちに気づいてしまった後見えなくするなんて、意地悪だな、神様。
せっかく二人きりなのに。

『でも怪我がなかったんだ、良かったじゃないか』
「でもアラートが…」

一呼吸おいたあと、出来るだけ心配させないように、いつもの冷静な声調で答えた。

『助け合うのが仲間だろう?そして今こうやって俺を治してくれてるじゃないか』

彼女はありがとう、と言って堰を切ったように泣き出した。

『だいぶ調子が戻ってきたよ。だが視覚回路が回復してないな』
「あ、…それはラチェットが持ってきてくれる器具で治すから…、待っててね」
『そうか』
「アラート…」
『何だい?』
「私、ずっとアラートには距離を置かれてる感じがしてたんだけど」
『……』
「良かった、今日少し話せて」
『……』
「みんなみたいな体じゃないから迷惑ばかりかけて、こんな風に足手まといになるときの方がきっと多いけど、これからも、よろしくね」
『…もちろんだよ』
「…ありがとう」
『……』
「……」
『ああ、そうだ。レイン、さっきの反応だけど』
「あ、原因分かった?」
『ああ、何も心配いらなかった。それより見せたいものが出来たんだ。きっと気に入るから、また今度連れて行くよ』
「?…うん、分かった、楽しみにしてる」

きっとレインは今あのブラウンの瞳を緩ませて、笑ってる。
今、体が自由に動けば、抱き締めるのに。
さっきあっさりと、分析する余裕もなく認めてしまったこの気持ちに、正直に。

ラチェットと、ホイストに運ばれて、基地に戻った後、泥まみれの彼女をやっと見ることが出来た。
自分だって頬や腕に傷を負っているのにそれでも、視力を取り戻した俺に、良かった、と涙目で頷いて。

だから、彼女は皆に好かれるのか。

彼女に触れる他のメンバーに新たな気持ちが沸き上がるのを抑える。

触るな、こんにゃろう。

だがいいんだ、あの孵った命が目を開いて、俺たちを見る日の約束が、近いうちくるからいいんだ。


俺は今日も冷静を装う。

"当たりどころが悪かったら暴走してしまうかもしれないでしょ?そうならないように、私がいるの"


…もう手遅れだな。だいぶ、当たりどころが悪かったらしい。



2009
藍さまへ!