実写パラレル/美しき悪夢 | ナノ
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29.ずっと好きだった

俺は堕ちる
在るべき場所に
其処は何処だ?
そもそもあるのか
この俺に そんな場所が
帰るべき場所
還るべき場所
誰かが導くのではなく
己が決めた場所
あるとすれば
それは無の世界だ
俺が望んだ世界
全てのものを 手にしたあとの
全てを無に還した世界


───此処は何処だ?…懐かしい。ああ、これが走馬灯というやつか。

おらいおんと、めがとろんと、わたし!

馬の尾のように束ねたまだ若木のように柔らかい幼い髪を風に揺らしている。
そうだ、彼女はエイリアル。
まだ幼い頃、村のはずれの小さな家に、ジプシーの母娘が住み着いたと聞き、オライオンと見に行った。
窓から家を覗き、その抜けるような肌の色に、自分たちとは違う生き物なんじゃないかと思ったものだった。剥けた桃のようなみずみずしい肌の色。

てんしみたいだ
そうか?

天使の意味が分かっているのか分かっていないのか、俺よりいくらか若いオライオンは覗きに行くたびに、エイリアルを眺めてそう言った。美女といえる容姿ではないが、あたたかい雰囲気と華やかな笑顔は、忽ち狭い村では知れた顔になった。
必ず毎日、オライオンに見に行こうと誘われ、見に行く。
オライオンは村長の息子で、夕暮れになれば村で一番大きな家に帰って行く。
俺は生まれつきの孤児だった。
帰る場所は教会。
不幸だと思った事もなかったし、誰かと過ごすのは煩わしいとも思う性格が手伝って、この立場は自分の性に合っていた。聖職者としての道を神父にすすめられたりもしたが、どうにもこのプライマスという蒼き創造神を、俺は信じることが出来なかった。
神父はアルファートリンという穏やかな爺さんだった。

「信じるものがないというのは、己しか信じることが出来ないということじゃな。これはなかなか厳しい道じゃが、同時に世の流れに惑わされぬ強固な精神を養える」

聖職者にもかかわらず、俺が神を信じない事にも、決して否定や貶すことをしなかった。
誰かと連むのは虫酸が走るほど嫌いだったが、オライオンは違った。
オライオンは一言でいえば、無駄のない男だ。何をしても俺よりも下だったが、無闇にひねくれたり、無駄な抵抗をしない。自分は自分だと思っている。何より自分を理解していた。
だから居心地がよかった。同時に刺激を受ける相手でもあった。
幼い頃に窓から覗き見していたエイリアルはいつからか俺達に懐き、年頃になっても、何をするにも三人一緒にしたものだ。
他人といることが煩わしかった俺は、いつの間にかそばにいる二人を、兄妹のような感覚で見ていたように思う。
オライオンはエイリアルに惚れていた。
それは聞かなくてもわかった。あいつはわかりやすい。
ただエイリアルの方はというと、俺の目には何にとらわれるわけでもなくただ三人共に過ごすことに楽しみを見いだしているように映った。
村に住みだして10年ほどたったある日、母親を急な病でなくし、それからエイリアルは一人になった。悲しみを見せないようにしているのが痛々しく、昼間は全く気にならなかったのに、あの小さな家にひとりで悲しみに耐えながら夜を過ごす彼女を思うと苛々して、俺は教会を夜中に抜け出した。

…メガトロン…

エイリアルは案の定泣いていた。
存在しているものがなくなると、それに愛情があればあるほど失った時の痛みは激しい。
だから俺はそのエイリアルを見たときに初めて、俺には親がいなくてよかったと、プライマスに感謝した。
俺が17歳、エイリアルが14歳の時だった。
その日は、村に朝日が訪れる半時ほど前まで、エイリアルの家で、彼女を抱き締めて眠った。
エイリアルは拒まず、だが肌を直接交えることは何ひとつしなかった。
出来なかったのだ。
抱きたいと単純に思う瞬間がなかったわけではない。むしろ理性を失いそうになったくらいだった。髪の香りを直で感じるほどの距離に、誰かを受け入れたのが初めてだった。
だが結局エイリアルを見ていると、俺の中の何かが、いつも歯止めをかけた。
エイリアルは、ある意味特別だったと思う。
俺の醜い欲望にまみれた禍々しい体液があいつに流れ込むと考えただけで、それは罪なことだと思った。
朝日が上る前に、俺は教会に帰って自分の寝床についたが、余計に苛々した。
体が離れれば、何度も犯せばよかったと後悔した。
だがその考えは無様で、誰にも知られたくなかったことは間違いなく、俺は色々な思いを彼女に重ねたが、神父には一度も懺悔しなかった。
エイリアルの傍に居続けると、俺は愚かな男に成り下がる気がした。
だから何かにつけ彼女を避け、猟をするかたわら剣術を磨くべく、村を出て過ごした。それにはオライオンがついてきた。
エイリアルはただ寂しい顔だけをしていた。
ずっと一緒にいれたらいいのに、メガトロンは私のそばからきっと離れたいと思っている、何度かそう言われた。
そう言ってふてくされるたびに、犯したくなった。
18の春に、王都騎士団の話を旅人から聞いた。
俺は単純に、それを聞いた瞬間世界を勝ち取りたいという欲望にかられた。
生まれてからずっと思っていた自分は特別なのだと思う気持ちは、どんどん拍車がかかっていった。

─王都へ行き、騎士団に志願する
メガトロン、君ならきっと素晴らしい騎士団長になると思うよ!僕が保証する!
…お前も来い
いや、僕はいい。足手まといになるだけだ
…俺より筋があると思うんだがな

結局、オライオンはついてきた。
エイリアルの事は極力考えたくなかったが、話さずにいるとふてくされるので、おおまかに話をしたが、その時に口にしてしまった言葉に、なにより自分で吃驚した。

名をあげたその時には、一緒になってくれるか、俺と

何を言っているのか自分でもわからなかった。エイリアルは答えなかった。
幾分、即答ではいと答えるだろうと自惚れていたが、エイリアルは困ったように沈黙した。それでやっと気づいたのだ。
こんなに傍に居たのに、此奴が誰を思っているのか。

いや、お前のような弱虫は御免だな。お前にはオライオンがいい。似たもの夫婦だ、ふん
め、メガトロン、私は─

オライオンを想い頬を赤くするエイリアルに腹が立った。

だがそれも見ていて腹が立つな。やっぱり俺のものになれ





王都は色々な面が合わさる混沌の街だった。
時代は聖王センチネル・プライムが築いた栄華の時。だが国境を越えてしまえば、当たり前のように戦争で人が死んでいた。たくさんの幼子が孤児になり、人を殺せば殺すほど名誉とされた。

「"騎士たる器へ善なる力を"」

善なる、とは滑稽だな。
何が善で、何が悪かわからなかった。
人を殺す力が善だとは、それこそ恐ろしい時代だ。そんなことを思っていた。
何かが透けて体を通り抜けていく感覚だった。初めて心の中で自分以外の声がした。

─すべてを切り開く"斬"の力

プライマスから力を得るという事には全く興味がなかったが、王都は華やかで、この都を本当の故郷も知れぬ孤児の俺が、我がものにして歩く事を考えた。
だが力を得てからは、そんなことを考える暇もなく、ただ剣術にのめり込み、日々が過ぎていった。
オライオンは光の力を得た。オライオンが授かった剣は、プライムの聖剣。俺は斬馬刀を使いこなす鍛錬をつみ、愛剣にカオスブリンガーと名を付けた。
故郷を離れても、オライオンはエイリアルに手紙を書き、その返事は必ず俺とオライオンの両方に宛てられていた。いつも無事を祈っています、としめくくられる手紙は、毎回故郷の若木の匂いがした。
騎士団長になった年に、故郷に一度帰る許しが得られたが、俺は帰らなかった。

─メガトロン…、

エイリアルの母親が死んだ後の、あの夜の夢を時々見た。
見るたびに、己の弱さを垣間見るようで苦虫を噛み潰したような気分になった。色街で何度女を買っても、あの抜けるような肌の色と吸いつく感触は、ひとつもありはしなかった。
エイリアルからの手紙を読まなくなったのはその頃からだった。
軍を連勝に導き、俺は王に精鋭の選抜を申し出た。
執拗に俺についてくる部下が増えていき(連むのは嫌いだが、ついてくるのは問題ない)、最も力を見込んだのはスタースクリームという男だった。
若くしなやかだが中身は自尊心の塊のような男で、しかし細身の双刃を使いこなす腕が、群を抜いているのは確かだった。
国境の街に反乱の動きがあるとの知らせを聞き、遠征に向かう途中で黒の風を浴びた瀕死の男を拾った。
隣国の兵士であったらしいその男はブラックアウトといい、もう残りわずかだった命を孤独に終わらせてやることもできたが、その男専用の武器と思われる充填式のボウガンと、暗闇のような瞳を見て、恐らく腕の立つスナイパーであると悟った。

その武器に、名前はあるのか
「──…スコルポノック…」

その後話をするたび、この武器には魂が宿っていると話していた。
今思えば、なぜか懐かしい名前だ。誰かに話を聞いたな。誰だったか───

その遠征に連れて行った面々は、それぞれ力があり、精鋭ばかりだった。反のスタースクリーム、破のブロウル、滅のバリケード、析のフレンジーに、壊のボーンクラッシャー。
だがどんなに力を得ていても、黒の風は容赦なく無様な人間をあざ笑うかのように体を浚っていく。

「メガトロン様ー!!」
ぐあぁアアぁああぁ!!

俺は負けたくなかった。俺は力が欲しかった。すべてを超越して、すべてを支配する力。
恐れという属性がこの世にあるなら、俺にとっては間違いなくこの黒の風がそれに属していた。
プライマスに与えられた力は人として生きる上では超越した力なのかもしれない。
だが、俺の中の"何か"は、それだけでは満たされなかった。


─では奪え─
─すべてを欺け─
─自らの命の力さえも─
─闇に還せ─
─光から闇を取り戻せ─


黒の風を浴びた俺は、漲った渦巻く闇の力を、なんとか己の力にしたかった。

─すべてを無に還せ─


大いなる力と、大いなる犠牲は、光と闇のごとく必ず対になり付きまとう。俺は、すべてを支配する力が欲しい。そのために捨てるものは、いくらあってもかまわんのだ。

光に属す事象は全ての闇の力を弱らせる。
慈しむ心や、情け、育み、生み出すこと。
それから───愛すること。

─メガトロン…


愛してはならない

─必ず帰ってきてね、待ってるから


愛してはならない、決して。