実写パラレル/美しき悪夢 | ナノ
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18.天使の恐れ

いっそ
狂ってしまえば
傷つけずに
すんだのだろうか






「…神話は神話だろ、実話なのか?」

ジャズは夜の中にぽっかりと光を落とす祭壇のプライマス像を見上げる。石板を太い指でなぞるアイアンハイドの横で、ラチェットが同じものをのぞき込んだ。

「神話として残したのは誰でもない、事実の後を生きた人間じゃ」

ラチェットはかぶりをあげただ黙って、アルファートリンを見つめた。

「事実とは、時がたつにつれねじ曲げられ、誇張されるものじゃ。じゃが語られる事に偽りはない。お主たちの"前身"はこの記された時代を間違いなく生き抜き、後に語り継がれるほどのいさおを残した。それは事実じゃ」
「…おいらたちが神様だったってこと?」

ふむ、と一息置いて、アルファートリンは答える。

「先にも言った通り、お主らを"神"と語ったのはあくまで後を生きた人間じゃ。お主たちは…、力を与えられた"選ばれた戦士"だった、と言った方が相応しいかの」
「…力、ですか?」

それまで口を挟まなかったラチェットが、ぽつりと尋ねた。
ずり落ちた眼鏡を中指であげたアルファートリンを、全員がしっかりと見つめている。教会の灯りは、いつにも増して幻想的だった。

「お主たちの中では今でもその"力"がいきづいておるはずじゃ。たとえば…そうじゃな、ジャズよ」
「あ?」
「お主が生業にしておる今の"宝探し"、誰にも見つけられんものもお主の手に掛かれば、不思議と見つからぬものはなかろう?」
「………」
「策の力は分析、そして開拓を司る」

アルファートリンの視線が、すっ、とバンブルビーに流される。それを受けて、大きなアクアブルーの目がさらに大きく開いた。

「バンブルビー、お主の力は斥。動静や地形を誰に覚られることもないほどのその迅速さで調べ上げる」
「…どういうこと?」
「"銀河一の敵を躱す力"はまだ健在かの?」
「な、なんで知ってるの、それ!」

ふぉっふぉっ、と老人らしく笑うアルファートリンの語る不思議な言葉に、バンブルビーは信じられない、と首を振る。たしかにかわすことは銀河一だと思っているけれど、口に出したことはない。

「ラチェット、お主は命の力。消えそうな命をその手でつなぐ奇跡に喜びを感じておるだろう、そのためならどんな探求でもいとわぬ、お主にはその感覚が分かるはずじゃ」
「………」
「アイアンハイド、お主は見たまんまじゃ」
「む?」
「戦の力。拳を交え戦う事に長けておる。…ちと血の気が多いかの」
「…………」

バンブルビーが、ぶふっと吹き出した音でさえ響く教会で聞く、リアルな神話は不思議だった。嘘のような本当の事のような、なんとも言い難い感覚だった。

「そしてオプティマス。やつは光じゃ。マトリクスの叡智とかけ合わせることで最大級の力となる。ある事件で命を落とす前はオライオンという名前じゃったか」
「…オライオン、だと?」
「──!!ジャズ…!!」
「…どうしたんじゃ」
「…………いや、なんでもない、続けてくれ」

ジャズがバンブルビーに目配せし、それを確認したアルファートリンは二度頷いて、続けた。

「他にも力を与えられた者はいたが、終末の日まで生きて残ったのはお主等だけじゃ。そして光に対をなす、闇を軸とした力を持つもの」
「…私達のように、彼らも今を生きているんですか?」

ラチェットが素早く聞いた。

「もちろん生きておる。…もっとも、今その過去の記憶を保持しておる者はおらんがの」
「…そっか」

どこか安堵した表情を見せるバンブルビーに、アルファートリンは微笑みを返した。

「プライムの対は闇の力を持つメガトロン。もともと、メガトロンは"斬"の力をプライマスから得ていた。みるみるうちにその類い希なる力で、当時の国を守る騎士団長にまで登り詰めた─────

─メガトロン様に続け!!


───斬のメガトロン、光のオライオン。二人は幼い頃から共に生きてきた同士じゃった。もとは山々に囲まれた名もなき小さな村の生まれでな。王国の騎士団に入ってきたのも二人同時じゃった。
メガトロンの類い希なる武芸もさることながら、オライオンの力も目を見張るものがあった。この二豪がおれば、たとえ黒の風が何度吹こうが、王国は安泰の一途を辿ると誰もが信じておった。

──ところが、この二豪の袂を分かつ出来事が起きた。
メガトロンを含む騎士団員達の一部が、遠征から王都に帰る途中、黒の風に見舞われての

─おのれ…おのれぇ───!


──その時代の黒の風は今の何十倍もの濃度でな。何せ暗黒の月が漂う時代だからのう、吹かれればどんな微風だろうが命は飲み込まれ、あるものは風に補食され、またあるものは地を這う黒い影となった。
無論、プライマスに力をいただいた者達で結成された王国騎士団も例外ではなかった。
───じゃが、ひとりだけその力を己の力に取り込んだ強者がおった。

─それがメガトロンじゃ。
斬の力と"闇"の力を融合したメガトロンは、その青かった瞳が赤き光しか宿さなくなったことをきっかけに、全身を隠すかのごとく鎧をまとい、自らを暗黒騎士と称し騎士団から独立し、その力を活かそうとした。
メガトロンに心酔しておった一部の騎士団員もそれについていった。
こうして、光の力のお主等はパラディン(聖騎士)、そしてメガトロン率いるダークナイト(暗黒騎士)の礎ができたというわけじゃ。
一時は良かった。
それぞれの力を使い国を護り、対となる力は互いの足りぬところを補い合った。
プライマスだけはその行く末を懸念した。
いつかこの暗黒騎士がこの世に混沌を齎す火種となるのでは、とな。
プライマスは密かに秘策をうった。
そして神さえ抗えぬ力を───、一人の娘に授けた。
───名はエイリアル」
「エイリアル?何の力だ?女神なんて聖書の中に出てきたか?」

ジャズがアルファートリンの独白を挫いた。

「確かに、聖書には出てこないよね」

バンブルビーも頷いた。

「その力はプライマスと、与えられたエイリアルにしか解せぬものじゃ」

アルファートリンがそこまで話したところで、教会の扉が開いた。物凄い剣幕で金髪の女性がジャズに向かって走り込んでくる。入口から、ライトスピードに乗ったままの男が中を覗いている。

「あなたレイラに何を言ったの!?」

まくし立てられるジャズは、あ?としか言葉を返せなかった。
ずるずるとへたり込んだ突然の訪問者に、ジャズは立ち上がり手を貸した。

「どうした、なんかあったのか」
「─…レイラが、…レイラが…!!!」

そう言って泣き出した金髪の女性に、アルファートリンが近づいた。

「どうしたんじゃマギー、落ち着いて話さんか」

ライトスピードに乗っていた男が、かちゃんと音を立てて教会に入ってくる。

「自宅で倒れていた。睡眠薬をしこたま飲んだ跡があった。さっき救急車を呼んで、今病院だ」

長椅子に腰掛けていたラチェットが立ち上がった。

「私は病院に戻る。アイアンハイド!オプティマスに連絡を!」

ラチェットが走り出した。
さっと前に出る男に、ラチェットは立ち止まった。

「…足、あるのか?ないなら乗せていく」

そういえばこいつ、どこかで見たことがあると思えば、そうだった。レイラが6階から私の休憩を邪魔したときの男だ。

「…頼む」