実写パラレル/美しき悪夢 | ナノ
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14.繋ぎ止める言葉をしらない

アイアンハイドがたくさんしゃべってくれたおかげで、視野が少し広くなった気がした。自分は何も世界の役に立っていないのに。アークが戦争に巻き込まれてしまったら、アイアンハイドは真っ先に戦いに向かわなくてはならない。ラチェットも毎日たくさんの人の命を救っている。ジャズもバンブルビーも自分の生き方を見つけてる。オプティマスなんて、国の一番えらい人だ。
───オプティマス。
やりすぎたかも、と思った。気を引きたい子供と一緒だ。もうあまり会えないかもしれないオプティマスを全然見なかったのは、というか見れなかったのは、何故か彼には、オライオンのことを見破られてしまいそうな気がしたからだった。神父さまと同じ目をしているオプティマス。穏やかなのに真っ直ぐで、まるで天に向かって伸びていく木のような、静かで力強いまなざしは、もう私には眩しすぎる。
小さな頃あのまなざしが欲しかった。
まぶしいから、欲しかった。
一緒にいたら、自分もまぶしくなれる気がした。
けれど今は、オプティマスを見るたびに、彼は天を目指して、私はどんどん奈落へ落ちていっているように思える。
そのまま落ちて行って、夜の闇に消えてしまいそうなあの人の手を取りたいと、切に思う。
行きたい。
もう誰も迎えに来てくれない気がする。それでも、行きたい。
戻れなくても、あなたと生きたい。
───ねえ、それが大人になるってことなの?
オライオン…





─メガトロン様!!
力が欲しい
すべてを無にする
お前のその力

─皆メガトロン様に続け!!
─メガトロン頑張ってね!国で一番の騎士になって帰ってきてね

─メガトロン、君ならきっと素晴らしい騎士団長になると思うよ!僕が保証する!
愛せば、愛すほど
貴様は光を湛え
強くなる

─いや、僕はいい。足手まといになるだけだ
貴様が羨ましい
─…そして、憎い






赤黒い空は、太陽がどこにあるのかわからなかった。見上げて、それから、ぬかるみが足の裏に直にめり込む感触にぎょっとして、藍青色の草花の茂った足元を見下ろした。どうしても私は、彼に足を洗って欲しいらしい。また靴を履いていなかった。鬱蒼とした青黒い森の中は黄昏の時間のような夜明け前のような、あいまいな明るさだった。
オライオンは、もうこんなふうに靴を履いてなくても、私を抱いてはくれない気がした。
バスタブの中で熱を分け合った時、彼は、私を殺しながら犯した。
彼は本当は、私を殺そうとしているのかもしれないと思う。本当は愛していないのかもしれない。
そう考えただけで会いたくなった。
どうかこの迫ってくる淋しさを彼の体で埋めてほしい。出来るだけ埋めてほしい。淋しさがどこからも入って来ないように。

『靴はここにある』

突然現れた、漆黒のフェドーラ帽をかぶった銀色の人は、片方の手に、ガラスの靴を乗せていた。
シンデレラはこんな気分だったのかな。きっとその靴は私の足にぴたりと合うのだ。
けれど、そうじゃなくて、私は彼に足を洗って欲しい。
思わず抱きついた。
泣きたくなるくらい会いたかった人。
触れて欲しい。奥の奥まで。
受け止めてくれた、彼の匂いを吸い込んだ。きっと月はこんな匂いがするはずだ。

彼は私を抱き上げ、迎えに乗せた。
手綱の繋がった全身が漆黒の毛に覆われた馬は、赤く光る目を持つ頭が三つに分かれている。それぞれ意思がある様子で、それぞれがそれぞれの瞬間で違う表情を見せて、時折見せる真っ赤な長い舌に、背筋が凍った。

「な、なにあれ」
『ケルベロスと呼んでいる』
「…馬なの?」
『安心しろ、俺達をとって食ったりはせん』

抱きかかえたまま、オライオンがそう言ったので、それを信じる事にした。
でもやっぱり怖いので、素早く走る馬車の中で、ケルベロスと呼ばれたその馬と、オライオンを交互に見ていた。けれどオライオンは、こちらばかり見ていた。焔色の目はこないだよりもずっと優しくて、それがかえっていつもより妖艶さを際立たせた。

『…よく来たな』
「………」

優しく髪をはらう指の腹は、かたい。全部の神経がそこにいく。

『…恐れをなしてもう来ないかと思っていたが』

ゆっくりと唇を見つめながら語りかけてくるオライオンは、それだけでどうしようもないくらいに官能的だった。薄くて形のよい唇。

『どうして来たんだ?』

ん?と聞きながら、頬に手を差し入れているオライオンの、漆黒のフェドーラ帽をゆっくりと取った。ぱらぱら、と後ろに撫でつけていた銀色の髪が細い束になって、幾束か額から頬に落ちてくる。彼は拒否せずに、ただ見つめ返すだけだった。

「…会いたかったから」
『……』
「すごく、すごく」
『………』
「どう思われても、本当に、本当に会いたかったから」
『……………』
「ここに…、いても…いい?」

全部伝わったか分からない。でも途中で泣き出してしまったのに、なにもいわずに聞いてくれた彼は、城に着いてしまう前に私を押し倒した。こまやかにけれど荒々しく抱かれた。雷に打たれるように、波に飲まれるように果てた。どうしようもなくお互いに体を貪った。
何もかも足りない。時間も、ぬくもりも
まるでお互いの隙間を探しあって埋め合うようなそんな行為だった。






どこにも帰りたくないのに、現実に引き戻されるのは突然。意識がなくなって、気がついたら現実なのだ。さよならも言わせてくれない。
この夢は一体何なんだろう。
何のためにこんな夢を見ているんだろう。
夢から離れている間、彼はどこで何をしているんだろう。
彼もどこかで同じ瞬間に醒めて、同じように思ってくれてたらいいのに。
何度もそう思った。