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Immortal

Immortal #1

朝も夜もない星たちは
心の奥底で沈殿したままの俺達を
何処にも連れて行ってはくれない


Immortal


極寒と漆黒の闇、"どこ"も"いつ"も意味を持たない場所。いつだったか、ここはそうたとえられた。戦艦ネメシス。
自室はあってないようなものである。ディセプティコンにとってあまり意味を持たない。だから自室に拘るやつもいないが、サウンドウェーブは違った。
いや、拘ってはいない。
ただ、無になれる時間がほんの少しだけ欲しいのだ。それだけ。ひとりきりの宇宙に閉じこもる時間が欲しい。主は居ても、その命を受けていない時間にすることといえばただひとつ、今まで蓄えてきた膨大な量の記録を──、
無駄なものから消していく。
そんな事はしなくとも、自分の体にデータを詰め込む容量の限界は、あってないようなものなのだが、そうせずにはいられなくなっていた。いつからだったか。
意味のない行為だ、実に。
ただその意味のない行為が、自我を保つ理由になるのなら、それは意味を持つ、と、
──彼女は言った。
もうあれからどのぐらいたったのだろう。
今もあの青い星はあるのか、分からない。
故に記録を辿るしかない。再生装置を起動させるのに、無駄な妨げが欲しくない。だからもう使わないデータは捨てる。
彼女のことは、全て記録していた。全て記憶するために。全てを己の中に閉じ込めておくために。

「──サウンドウェーブ?」

単純な構造の有機生命体。見上げるたびに揺れる柔らかな髪と睫毛。涙、笑顔、体の感触、呼吸の音、ありとあらゆる彼女を記録した。
「──また考え事?」

こうして記憶を呼び戻すと、いつだって彼女は此処にいるが、しかし此処にはいない。

「──いつも静かだね」

現実と幻想の区別がつかなくなるとは愚かなものだと、いつもそう思うのに、

「名前と全然違う。音の波がないひとみたい」

俺の時間は、止まってしまった。
思い出と呼べるほど甘いものではなかったが、なかったことに出来るほど単純なものでもなかった。
彼女は、そんな存在だった。



───…54%
────69%
【──アナタの今日の運勢…
───嘗てない衝撃を与えた
─大切な人と出会うでしょう
─Hello?
──あなたはトマート、私はトメィト…

…もしもし、

────この事件を食い止める為に─
──爪先で立ち、姿勢を正します

…つながって…る?

──ケチャップはスマイル牧場のごろごろトマト入りをお選びください!
────これについてアメリカ政府は─
─死傷者は143人を超え
────だから先週までと言っていただろう!!
─毎週土曜朝8時は、
─────
…もしもし、】
─────…complete.

光速で動ける、だとか、組み込んでいる武器の破壊力という戦闘能力で、あらゆる優劣をつけるのだとしたら、搭載しているラヴィッジの方がはるかに上だ。
そういった側面でトランスフォーマーを見るのだとしたら、サウンドウェーブというディセプティコンは全く別物として考えなくてはならない。他のディセプティコンが出来ること──、例えばあの善人面差し上げている欠陥オートボットたちを、その固めまくった内部の武器云々で打ち負かすこと。それは誰かが出来る。
だがサウンドウェーブは、他のディセプティコンに出来ないことができる。
オールスパークが堕ちたということを除けば、非常に原始的なこの星は、原始的な機械がまるで玩具のようにはびこり、取り込むのに二分もかからない衛星たちが取り囲み、わずかに理性を伴った霊長類(この呼び名でさえ滑稽だ)が、日々意味もなく生きているのだ。ざわざわと、その無意味で小さな世界をかき乱しながら。ある者は生まれ、ある者は怒り、ある者は泣き、ある者は笑い、ある者は死ぬ。それが宇宙だと勘違いしている。
変な話、この衛星をコントロールすれば、サウンドウェーブが人間の宇宙になれるということを、彼らは知らない。愚かだ。実に。愚かなまま生まれ、死ぬ。
サウンドウェーブとしては、それは本当に意味のないことだった。しかしこのディセプティコンのなかでも変わり者で何を考えているかわからない、と称される情報参謀は、そんな玩具の宇宙を信じているこの人間たちの、下等で混沌としたネットワークに入り込むのが嫌いではなかった。
…好きでもないが。
目的はオールスパークだけ。ディセプティコンであるだけ。メガトロンであるだけなのだ。ゆるやかに、抵抗のない空間で変形しながら、衛星から必要元素を取り込み始めたとき、ふと神経回路が微かな音声に反応した。

【──もしもし】

というのも、一方通行なのだ。

【──そこから、私が見える?】

通信先がない。
では以前はその宛先が存在していたのかというと、そうでもなさそうだった。記録にはない。

【──見えていたらいいのに】

途切れた通信は他国の通信であやふやに融けていった。

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