ごみばこ/Holiday | ナノ
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★その時彼はいない(オプティマス/TF4)

・TF4で試し書きしたの
・オプティマスのページの下書きに置いたままで危うく消すとこだったからサルベージさせておきます




右腕の鈍い痛みで目が覚めた。ゆっくり起き上がり頭上の時計を見ると、4時47分。覚醒しないだるさで思わず頭をかかえ、ゆっくり瞬きをした。包帯を替えなくちゃいけない。時間がたって赤黒くなった血が染み込んでいるのが薄暗い部屋の中でよけいに真っ黒に見える。恐る恐る包帯を浮かせ、切られた腕を覗く。結構深い。昨日、駅で電車を待っていた時に切られた。隣で同じように電車を待っていた男が豹変した。
エイリアンの手先が、あのデカブツ達に伝えろ、私の母親を返せ、と叫ばれた。言葉の意味を考えているあいだに、腕を切られた。血にビックリしたのと、痛みと、恐怖で慌てて逃げたけれど、転けた。駅だったのは幸いし、駅員が助けてくれた。
おかげで、帰宅したのは12時をまわった。

「……」

腕なんて。
腕なんてオプティマスに会えるならくれてやる。
どんどん殴ればいいと思う。それでもいい。
そう思った途端に、自分の頼りなさが情けなくなった。毎日この行き場のない劣等感とたたかっている。
辺りを見回した。
会社と家の往復。
カレンダーは先々月の一ヶ月を壁に吊るしたままで、服も床に散乱している。
なにもやる気が起きない。
しかし、生活をしなくてはならない。どこをどうあがいても私は、ただの人間。

───私は、オプティマスを失った。





左手だけで右腕の包帯を変えるのは難儀だ。巻きつけていると、想像していたより包帯の終わりが短かった。

「あれ、終わっちゃった…」

救急箱を覗いても、ストックは見当たらなかった。

───…時々間の抜けたしくじりをするのだな

そう言って、料理の時に切った指先を青白い光でスキャンして、害のある細菌はなく無事だと、穏やかに低音の声を落としていた遠い星の司令官。

「…………」

これから、どうすればいいんだろう。
オプティマスが会いにこなくなって、二ヶ月が過ぎた。最後に連絡をとった時、電話が途中で切れた。
今私の近くにいると君が危険なため、しばらく会えない。しかし必ず連絡をする、とだけ。最後の言葉はたったそれだけ。それからしばらくして、大切にしていた彼のスパークが融合した指輪が輝きを失い、絶望した。エジプトを走り回った時、あの時の方が希望に満ちていた。彼らを知らない人間の方が地球の大多数を占めていたころ、なによりこの星がオートボットの永住地になればいいと願っていた。正体がばれたところで、人間に受け入れられないわけがないと、心から信じていた。今もそれは信じているけれど、トランスフォーマーに家族を殺されてしまった人達の思いはどこにいくのかと思うと、やはり言葉が見つからなかった。今の時代、オートボットと関わっている人間、トランスフォーマーと関わっている人間のことを調べるのなんて容易だ。オートボットと関わっていることそのものが人間の敵だと思われても仕方のないこと。それは、わかっている。
だけど、じゃあ人間を守るために死んでしまったトランスフォーマーを思うと、同じように言葉が見つからなかった。
オプティマス、これから私は、どんな風に動けばあなたを助けられるかな。死んでしまったの?どこかで機能停止しているだけ?

「これから、どうしたらいいんだろう、本当に」

ひとりごちて言葉にしてみても、不安が降り積もるばかり。気だるさが残る体をもう少し休ませようと寝室に戻る。寝室の扉を閉めた時、ふと目に入ったものがあった。彼がヒューマンモードの時に好んで履いていたジーパンだ。洗濯してたたんだまま、すぐそこにクローゼットはあるのに入れてもいない。あらためて二ヶ月、なんにもしなかったということを自覚する。

「…私、今本当にずぼらだ…」

ジーパンを手に取り、クローゼットを開けた途端、

「───、ん、」

何かがジーパンから転げ落ちた。

「……」

金属製の、なにか…小さなメモリーカードのようなかたちをしたものだった。小さなサイバトロンの文字の羅列と、めくってみると、やはり何か接合機器と繋ぎ合わせるようなかみ合わせがある。

「やば、いっしょに洗濯しちゃったのかな…」

これはやばい。
知らなかった。たぶんポケットから落ちたものだと思う。サイバトロン製のものが洗濯でダメになるとは到底思えないが、一気に怖くなった。思わずパソコンに向かって走った。彼がサイバトロン製の高性能な機能をインストールさせて改造させた、特別仕様になってしまったうちのパソコン。これのおかげでSkypeも使わなければダウンロードサイトも使わなくても、映画も見放題で、離れていてもびっくりするほど綺麗な解像度でオプティマスの顔が見えていた。これに入れれば、作動するかしないかわかる。壊れていたら、オプティマスごめんなさい。
電源を入れ、側面に差し込む。
ブゥォン、と地球製ではない独特の重たい電子音が部屋じゅうに響いた。ホログラムと普通の映像が混じっているものが映し出された。
壊れてはいなかった。よかった。とりあえず起動したことでほっとした。

───待ってて!すぐ終わるから

これは…後ろ姿の私?料理を作っているみたいだ。

───ねえオプティマス!これやってみよ!爆笑するよたぶん!

ああ、これ最近のだな…携帯の…変な顔になるカメラアプリかなんかを見せてるのかな…

───オプティマスなら何を願う?故郷の再建…とかかな?

あっけらかんと問う何年か前の顔。私、オプティマスにこんな顔して話してたんだ。

───弱くないと思う。そうやって思い出すことで…、オプティマスは自分と向き合うことが出来てると、私は思う
───あの…、お肉をつかまないでいただけますか司令官
───どんな姿でも、オプティマスならそれでいいよ

あれ…、これ…
全部、

───おかえり!
───あ、おかえりー待ってたよ!
───おかえりなさい、オプティマス
───おかえりなさい!

私だ…

「…う…!」

自分の姿が涙で霞んでぼんやりしていった。こうやって、大切に、大切に、私の生涯の記録を、彼が彼自身の機能で録り溜めていたなんて知らなかった。
こんなことをなんで今知るんだろう、会いたくて会いたくてたまらなくなるのに。思わず膝から崩れ落ちる。包帯に涙がぼたぼた落ちて、滲んでいく。

「…なんで…」

なんで居なくなったの?
なんで?
なんでオプティマスが…
なんでオプティマスが受け入れられないの?
オートボットが地球に何をしたっていうの?
オプティマス、会いたい、会いたい、会いたすぎて、死んじゃうよ…!
いつでもとてつもなく必要だと思っている時に限って、───その時彼はいない。





どのぐらいそうしていたのかわからないけれど、ここでうずくまって眠ってしまったようだった。涙が乾いて、頬がゴワゴワする。

「……」

指輪を薬指から外し、いつかのようにボールチェーンに通し、首にかける。
軽いメッセンジャーバッグに必要最低限のものを詰め込む。いちばん履きやすいスニーカーをシューボックスから出しながら、会社に電話をかけた。

「すみません、有給を消化させてほしいんですが…」

もう、限界だ。

「…はい、どうしてもやらなきゃいけないことがあって」

彼に会えないことが限界だ。
探しに行こう。
彼がただのトラックになっていても、それを買い取っていっしょに暮らす。
馬鹿げているかもしれない。
だけど
私には
それしか、道は、ないから───
彼と生涯を共にするという、未来しか、ないのだから。

2014/08/31
彼はテキサスにおりました。

シリーズ・その時彼女はいない
番外編/その時”彼”はいない