ごみばこ/Holiday | ナノ
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★Voice-ふたり(実写OP旅立ち シーン切り取り)

名前変換推奨します、だって七十億の中の一匹です。変換しないと…(笑)



◆◇◆◇◆◇◆




『指の違和感は?』

ラチェットがヒューマンモードに姿を変えたオプティマスの手のひらを見ながら指の一本一本を確認している。
独特の人間という生命体の弾力感にオプティマスは驚き、何度も歩行しながら足元を確かめる。

『慣れないだろう』
『ああ、ラチェット、お前を見上げるのは初めてだ』

もうすでにヒューマンモードを導入し終えてはいるものの、その姿になっていない"もとの"姿のラチェットに、オプティマスは笑いながら返事を返した。

『全てのインストールが済めばベースが完成する。回路が反応し、じきその姿にも慣れる』
『ああ、だといいが、この姿だと星が大きく感じるな』

オプティマスは一気に大きく感じるフーバーダムの入口に目を移す。優しい、朝の日差しは赤く澄んでいて、新しい一日の始まりを予感させる。オプティマスは、この瞬間が一日のうちで一番気に入っていた。

『人間の構造のコピーはそのままこの体に?』
『もちろん。血液こそ流れていないが…その姿の時には人間が感じうる全てのものが回路に流れる計算だ。ベースはあなた自身だが』

ラチェットは続けた。

『どちらにせよトランスフォームして元の姿に戻ってしまえば、回路は組み替えられある程度制御できる』
『なるほどな』

オプティマスがビークルモードに姿を変える。慣れるまでは大変だなこれは、と続けた。

『政府にこの事を報告するのか?』

エンジンをかけたオプティマスにラチェットが話しかけた。

『政府には報告している。我々は彼らの助けが必要だ。基地として使わせてもらっているこの場所に嫌悪感や不信感を持つ人間も多いだろう。私は彼らと戦争はしたくない、導入の前に交渉したのだ。それで建物を壊さなくなるのなら問題はないと言われた』
『では、どこへ?』
『慣れてくる。この機能にな』
『なるほど。何かあれば回線を』

そう言うとラチェットはくるりと背を向け、奥のラボへ歩いていった。

オプティマスは入口へ向かう。
朝の優しい日差しは、穏やかにオプティマスの装甲を暖める。

16日前に会った、あの人間はどうしているだろう。

ふと思い出した。
今日埋め込んだ機能を使えば目線を合わせ、心拍数を上げさせることなく話が出来るだろうか。

また、会ってみたい。
帰りしなに見せた笑顔は、そう思わせるものだった。

─名称?名前のこと?私七十億の中の一匹っていうの─

聴覚回路に残った声。
ハイウェイを走るオプティマスは、何度かその声を再生させた。








12時。
目覚ましは何度も鳴ったけれど起きれないものは起きれない。
七十億の中の一匹はベッドの上で通勤用のバッグに手を伸ばし、ミネラルウォーターと、"鉄分"と大きく書かれたビニールパックから、カプセル状のサプリメントを取り出した。
昨日、また仕事が遅かった。終わったのは22時。駅の駐車場の前を通るたびに緊張していたけれど、二週間くらいそれを繰り返していたら、もう二度と会えない気がしてきてなんとなく自身の中で諦めがついたのか、何とも思わなくなった。

「はぁ…」

携帯を握った。

でも、会ってみたいな。
彼、なんなんだろう。
好奇心?
それもあるけれど…

電話帳ボタンを押す。

"メモリーNo.???"

点滅して急かしている携帯に、ナンバーを打ち込む。

1、1、4…
ゆっくりとボタンを押した。

"メモリーNo.114
OPTIMUS PRIME"


この二週間の間で、何度この行為を繰り返したのだろう。
電話番号がないのに、どうやって連絡すればいいんだろう。
これもこの二週間考えていたことだった。通話ボタンを押せば繋がる気がする。けれど、繋がっても電話する理由が思い浮かばない。

ひとつ、考えたのは、
"送ってくれた、お礼をします"
車に何をすればお礼になるんだろう。
ガソリンを満タンにすればお腹いっぱいになるのかな。
そもそも、何でこんなに気になるんだろう。
相手は喋る車だ。
ロボットだ。
ロボットなのかな?

なんだかとてつもなくくだらないことに思えてきた。

もうあの難しい話し方の、低くて穏やかで落ち着いた声も忘れそうだった。
曖昧にしか思い出せない。

七十億の中の一匹はカプセルをミネラルウォーターで流し込んだ。
携帯をベッドに放って、立ち上がり、髪を束ねる。平日の休みは本当に暇だと思った。



その時、電話が鳴った。
無機質な携帯から流れる陽気な音楽は、とてもこの平日の気だるい雰囲気に不似合いだと思った。

手にとって携帯を開く。
七十億の中の一匹は自分の目を疑った。

"OPTIMUS PRIME"

そう表示された携帯は陽気な音楽をまだ垂れ流す。ひどく滑稽で、しかも冷静さを欠かせた。

嬉しい気持ち半分、怖い気持ち半分。

七十億の中の一匹は通話ボタンを押す。


『七十億の中の一匹か?』
「は…はいっ」

声がガラガラだった。寝起きだから?恥ずかしい。

『私が分かるか?』
「お、オプティマスプライム!!」

電話の向こうで微笑んだようなふっ、という声が聞こえた。

『この星で動きやすい機能を取り込んだのだ。だがこの星を案内してくれる人間をあいにく見つけられなくてな。近くまで来たんだが』
「え?」

ちんぷんかんぷんの七十億の中の一匹は、間の抜けた声を出した。

『いや、違うか』
「え?」
『違う。声が』
「……」
『声が聞きたかった』

声…

「わ……私も!」

この気を逃すものかと声が出た自分自身に驚いた。よくわからなかった。
恥ずかしくなった。

けれど返ってきた言葉は落ち着いていて、

『そうか』

と短く返ってきた。

…会いたい。
…会いたい?
車に?ロボットに?

『七十億の中の一匹』

オプティマス…

『会いたい』

「ま…、待ってて!い、今どこにいるんですか?」
『海が見えるな。いや待て、私が迎えに行こう』

どうしよう

「あ、は、はい!」

神さま、私どうしたらいいですか?

『ここから制限速度を守って走り22分49秒後に君の家に着きそうだ』

思わず笑みがこぼれる。

「…待ってる!」





つまらない休日から抜け出したくて、軽くメイクをする。
いつもの格好、一番お気に入りのジーンズをねじ込んで。


彼の中に乗り込んで、秋の海へ


22分49秒ぴったりに家の前に着いたオプティマス。これから始まる、他とは違う私たちの日々は、まだきっと予測できない。

2008 log
なつかしやぁ〜
なつかしやぁ〜
もっと綺麗に洗って
リメイク予定です