実写/オプティマス | ナノ
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Reason

理由

私の意味
あなたと出会った 理由
理由がほしい
この隙間を塞げるような
この私たちの
越えられない隔たりに
横たわっている
真実に 届くための
あなたとひとつになるための
その"理由"がすべて 今
このためのものなら
私にも生きている意味が
あったといえるかな



Final


「早く何とかして!!」

ミカエラが泣いている。
最後まで役に立てなかった。もし、私がトランスフォーマーだったら、もっとまともな守り方ができたかもしれなかった。

「救急班をよこせ!脈がない!」

無線を構えているエップス、その傍らに、自分の体が見える。
サムとほんの10メートル、あるかないかのところ。
分かっている。私は死んだのだ。オプティマスがいなくなってからずっと死んだ気持ちでいたから、自分の事はどうでもよかった。
衛生兵がなにか体に注射している。今、これ…どこからこれを、見ているのだろう。この場所からはすべてのことが見えた。

「サム…目を覚まして!お願いだから目を開けて!」

こんなに愛してくれる人はそういないんだろうな。とても…羨ましい。

「こんな、こんな事が許されていいのか…」

エップスの虚しい声も聞き取れた。衛生兵は、ゆっくり首を振る。私の方をサムよりも早く諦めた。けれどもそのすぐ後、サムを見ていた衛生兵も、首を横に振った。ミカエラは泣き続けている。

「お願い、目を開けて、サム、愛してる、愛してるわ、あなたが必要なのだからお願い目を開けて!」

助けられなかった。

「サム!」
「息子のそばに行かせてくれ!」
『────!』

ロンさん、ジュディさん、
…バンブルビー、

何とか、何とか取り戻して、お願いします、これをどこかで見ている誰かがいたら、
…結局、誰かにまた縋るの?私は。
なにもできない。なにも。
そう思った時、まっさらな青空が視界いっぱいに広がった。



白い光と、サムが見える。

「なに、どうなったの?僕は死んだの?」

サムに触れようとしたけれど、サムからはこちらが見えないようだった。見上げると、目の前にいるぼんやりとした数体の、神様が見える。とても大きな…
あ、あれ…ちがう、
この感覚、覚えている。
マトリクスのあった場所。プライムの墓。
彼らは、…プライム?

──君をずっと見てきた。君の感覚では長い時間
「見ていた?僕を?」
『──君は我らの最後の子孫、オプティマスの為に戦った
『─指導者のマトリクスは、最大の善をなす力も、最大の破壊をなす力も持っている。君はそれを手にする資格があることを証明した。勇敢に、犠牲もいとわず

サムは戸惑ったように見上げている。ついその神秘的な光景に見とれていた。

『──それでこそリーダーに相応しい。我々の秘密を教えるに値する

オプティマスを探した。
彼はここにはいないのか。

『──マトリクスは見つけるのではない、勇気あるものが勝ち取るものだ

空気があたたかい。
オプティマスの家族が、まさか会えるとは思わなかった彼らを、今ここで見ている。

『──オプティマスの元へ戻り、彼にマトリクスを融合させるのだ。それが、君に定められた───運命なのだ

プライムたちは両手をあげ、サムの体が光った。
一瞬でサムは消えてしまった。
心から安心して頷いた。
思い残すことは、ない。
きっとやり遂げてくれる、私にはできないことを、彼が。
ゆっくりと目を閉じた。
あたたかい感触。
ずっとここにいたい。
ここにいたら、体がなくてもオプティマスと共に生きられるかもしれない。永遠に。
オプティマス、本当に、どれだけ想ったんだろう。あのシートのあたたかさ、運転席からの眺め、カーステレオから聞こえる、穏やかで低い声。ここにいたら全部思い出せる。初めて肩に乗せてくれた日、優しく抱き締めてくれた日、見せてくれた平和だったときの故郷の映像、フーバーダムで初めて触れ合った冬の入口、彼のほんの一部でも、痛みを知れた、あの日、大切に、大切にしてくれた。
彼にとっては瞬きよりも短い時間、たった二年間。本当に、本当に幸せだった。何もかも捨ててもいいと思えるほど、消えてなくなりたくなるほど、好きで好きでたまらずに、それを全部すくい上げて、あの優しさで、あの強さで、
護ってくれたトランスフォーマー。

『──ユマ

プライムの一人が名を呼んだ声で、目を開いた。正直、びっくりした。自分の姿は、サムには見えなかったのに、彼らには見えていたのだ。

「…はい…」

たどたどしく返事をした。役に立てなかった自分を見下ろすプライム達に圧倒された。

『──君にも感謝している、ユマ
「何もできませんでした…」
『──何も出来なかった者が此処に辿り着くはずがない。君はやり遂げたのだ

俯いていた顔を、ゆっくり上げる。やわらかい風が頬を掠めた。

『──君は我々に証明してくれた。我々とこの星の命を繋ぐ、"絆"を。その愛で

脇にいたプライムが、今度は口を開いた。

『──力とは、目に見えるものがすべてではない。確かに証明できるものがすべてではない。君は"希望"を信じ──、そして少年を導いた。彼の意志を此処に


涙がでた。
理由なんて、いらなかったんだ。そうだったんだ。
役に立てることが、あるなんて。
役に立っていたなんて。

『──オプティマスのスパークのもとへ行き、そして君が彼を、導くのだ。君たちの星へ彼の魂を導くことが出来るのは、オプティマスにとって君しかいない

私にしか、できないことがあるなんて。

───それこそが、君に課せられた、運命───

柔らかな光は、白く天に登って柱を作り、柔らかく自分の精神がそこに入り込んでいく感じだ。もうそこにプライムはいなかった。



光だ。
オプティマスは思った。眩い。自分の精神体はどこを今彷徨っているのか。

──オプティマス!───

懐かしい声だ。

──オプティマス…!───

回路に記憶が充満する。電子音はない、あの柔らかな声は…

──オプティマス───

私の、唯一の許しである存在だ。
自分の中にある、ぽっかりと大きく口を開けた暗闇の深淵のような場所。罪も責任も吸い込む場所、誰も入り込めないと思っていた其処に、君はその柔らかな体をすっぽりと入れ、無条件のあたたかさで満たした。

『ユマ───』

名前を呼んだ瞬間、オプティマスは呼び起こされたように胸に滑り込んできた温かな感覚に反応し、大きくカメラアイを開いた。

09/08/06