実写/オプティマス | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

Reason

ロボ・ウォリアー その1



『それで?』

あれ?

「でね、ずっと楽しみに待ってた映画だったのに、あんまりのんびりし過ぎちゃって、あーおいしいなんてタピオカの入ったちょっと高いジュースとか買って飲んでたら、話し込んじゃって時間ギリギリになって」

オプティマス?

『…………』
「上映時間の1分前にそれに気づいたんだよ」

どうして…

『それで、間に合ったのか?』

ここにいるの?

「うん、もうそれは執念だよ。友達と、タピオカ喉に詰まらせながら走った。フロアの端から端まで。ほら、シネコンの場合って奥まった場所にあるからさ」

もう、上海はいいの?

『転ばなかったか?』

髪を掬う手が、こんなに優しい。

「うん」

シャツのボタンが器用に外されていく。

「……あの、」
『ああ、聞いている。続きを話してくれ』

四つ目までが開いた。
どこにも行かないで、そのまま最後まで、

「でも…」

これは、

「話し終わったら、」

あなたは、行っちゃうんでしょう?
指が止まった。

『─…君に触れたかった。こんな直接的な言葉でしか思いを伝えられなかった私を、』

許して、く れ る か───

待って、いやだ、行かないで、オプティマス、行かないで、行かないでお願い、
オプティマス、
オプティマス──!!!!!




「!!」

─ハッとして目覚めたのは真夜中だった。たくさん泣いていた。

「…う…」

頭が痛い。
人間、どんな悲しい事があっても眠れるのだ。
不思議なもので。
刑務所跡の朝露を含んだ湿った泥のにおいが、意識を現実に引き戻した。



「でもロボ・ウォリアーはエイリアンのことなら何でも知ってる」

藁にでもすがる思いというのはこういうのをいうのかもしれない。
一夜明けて、レオのいう"ロボ・ウォリアー"に会うため、ニューヨークに向かった。バンブルビーの中で、少し疲れた話しぶりをするレオは、昨日に比べると落ち着きを取り戻したように見えた。

「奴のファイアウォールに仕返しのハッキングをしたときに、見たような気がするんだ、その記号みたいなやつ」

だれも実のところ期待してはいないのだが、何もないよりいいのだ。今必要なことは、謎を解くこと。連なるカマロ、ソルスティス、そしてそれよりちいさな双子。擬態していれば何にも目立つところはない。カマロは少し派手だが。
たどり着いた場所は、ブルックリン、と書かれた標識を追い越し、速度を落としながらデリの前を通過した。角だ。
4人は、この若々しさに相応しくない小さいが活気に満ちたデリの入口に屯した。
レオが肯いている。

「いい隠れ家だ。─…俺が合図するまで、おまえ等はここで待ってろ」

そのごった返す雰囲気に、店員は誰もがせわしく手と顔を動かしている。

「42番!!キシュカとクニッシュとカーシャとバーニシュカとクレプラックのコンボだ!キャッシュのみ!!お次は?」

高圧的な店員は、しっかりと混み合った客の列を視界に入れていた。
店員の方のカウンターには、もっと年配の小柄な女性が割って入った。

「鮭はスモークする前に塩水に漬けこめって言っただろう!?」
「ママ!!息子が自分の手を切ったらどうするんだ!俺の包丁さばきはニンジャ並みだぞ!!」

きっと毎日のやりとりなのだろう。そう思った。
割り込んだ冴えない若者を一瞥し、それからまた手を動かす。

「列を乱すな小僧、ちゃんと並べ」

一か八か、レオはさりげなく言った。

「ロボ・ウォリアー」

その言葉に、中年の店員のギョロ目がさらに開かれる。レオは口の端を意味ありげに捻った。

「知ってる?」
「…知らんな」
「"超リアルスクープドットコム"は?」
「ああ、あのゲームボーイ並みのセキュリティしかかけてない素人丸出しのブログのことか」

レオが憎しみを込めて店員をにらみつけた。

「"ロボ・ウォリアー"」

入口の三人は、しびれを切らしていた。
行こうか、とサムがいうので、それにユマもミカエラも頷いた。
キャップにフードをかぶっても、やはり人通りの激しい場所に置き去りにされるのは不安なのだ。
特にサムは。
サムがドアをあけた瞬間と、レオが叫んだのはほぼ同時だった。

「コイツだ!!!コイツがロボ・ウォリアーだ!」

そんな叫び声の向こう側で、サムとミカエラは自分の目を疑った。
強烈に記憶に残るタイプの男だからだ。
店員とは、二年前に会っている。別の場所で。

「…冗談だろ?」

サムがそう呟いたとき、腹を立てたように店員は客を帰し始めた。

「今日はもう終わりだ!!さあ、出て行け!さあ!!」

虫を追い出すように客を帰した店員は、つかつかと歩み寄り、さらにその高圧的な態度を硬化させた。
明らかに初対面ではないことが、ユマとレオには読み取れた。

「知り合い?」

ユマはサムにそう尋ね、驚きながら見つめ合う両者を交互に見た。

「ああ、旧友でね」

それには、男は腹を立てているようだ。

「旧友?旧友だと?一体誰のせいでセクター7が解散になったと思ってる?機密アクセス許可も取り上げられたし、もう退職金も出ない。それもこれも貴様とそこにいる犯罪者のガールフレンドのせいだ」

息継ぎなしでまくし立てるこの人は、元セクター7の人なのだという事は、今の会話でわかった。NESTが立ち上がる以前は、オートボットが拠点としていたフーバーダムには何度も行ったし、オプティマスにも、何度か聞いたことがあった。エイリアンを調べていた機関だ。そう思っていたら、男はミカエラをいやらしい目で眺め、

「しばらく見ないうちに色気づきやがって」

と言ったあと、こちらを見た。いたたまれずに仕方なく口を開いた。

「…は、はじめまして」
「新しいお仲間か?」

その言葉に答える前に、奥で野太いママの声がした。

「シーモア!!白身魚はどこへやった?」

そちらへ目線を向けると、オイ、豚を当てるなよ!!と切れながら肉を叩いている従業員が叫んでいた。

「ヤコフ!!」
「ファ!?」
「ボケーッと突っ立ってるだけじゃクリスマスのボーナスはもらえないぞ、新しい歯を入れたいんだろう?」

従業員には、歯がない。

「俺の夢だ!」
「だったら働け!!!!!」

シーモア、と呼ばれたこの男がこの不愉快な客に視線を戻したので、ミカエラが楽しそうに聞いた。

「ママと同居?」
「いやママが俺と住んでるんだ」

まくし立てる独特の喋り方は、本当に高圧的で、元エージェントだというのもうなづける気がする。

「お前ニュースに出ずっぱりだぞ。NBE1が復活したそうだな、何があった?いや、いい。知りたくもない関わりたくもない。じゃあな、」

サムもまくし立てるのは得意だってことは、知り合ったこの二年でよく知っている。

「そんなこといわないで、助けて欲しいんだ」

素早くくるりと振り返った元エージェントは、明らかに満足気に笑った。

「助けて欲しい?自動車ロボットを連れてその仲間とも通じてる最強の、少年が、この哀れな役立たずのシーモア・シモンズの助けを求めているとは」

またしてもシモンズは、背を向けた。それでもサムは諦めなかった。

「助けてよ!!わかる?僕はもうおかしくなりはじめてる。蟹型ロボットに変な機械入れられて脳を調べられて頭の中のエイリアンの文字や映像を下手なホームビデオみたいに流された。そのせいで指名手配にまでなってる、可哀想だろ?助けてよ!!!」
「…蟹が何をしたって?」
「え?」

勢いをへし折られた落差のありすぎるその態度に、サムは拍子抜けした。

「その蟹型ロボットだ。お前の脳から、エイリアンの文字を転写したんだな」

シモンズは、間髪入れずに来客を顎で促した。

「四人とも。冷凍庫に入れ。早く」