実写/オプティマス | ナノ
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Reason

友達

それにしても、荷物は少なすぎたかもしれない。靴、財布、携帯、指輪、Tシャツと、下着。それからiPod。
説得がうまくいかなかった時のために、有給は張り切って5日間取った(忌引を使うのはもうやめよう、心がいたい)。
サムも、高校生ではなくなり大学に進学。
会うのは約半年ぶりだった。半年もすれば、状況も、立場も、そのうちに変わる。生きている限り常に生物は変化する。大学に向かう道すがら、聞かなくてはならないことや言わなくてはならないことを頭の中で落ち着いて整理した。
少しお腹が空いたが、まずは目的地に行くのが先だ。午前中、飛行機を乗る前にミカエラに連絡を入れた。けれど繋がらなかった。自分とは別の側面で深くオートボットと関わっているこの二人のことは大好きだ。もちろん、二人に一番近い場所にいるオートボット、バンブルビーも。
自分よりもオートボットと深く関わっているサムが、なぜオプティマスの相談を断ったのか、まずそこからきちんと話を聞いて説得しなきゃ、と思った時、よく手入れされた青々とした芝生と、聳える格式高い建造物が目に飛び込んできた。目的地に着いたのだ。



タクシーのドアを開け、少ない荷物のおかげできっとそのへんのすましている女子大生に引けを取らないくらいに、スマートに降りれた。
…と思ったら、芝生にずっぽりとお気に入りのヒールがめり込んで、バランスを崩してよろめいた。ここにオプティマスがいたら抱き止めてくれるだろうが、あいにく彼はいない。
…大丈夫、大丈夫。
ひとりで頑張る。頑張れユマ!名門大学生に負けるな!心の中に宇宙イチのオプティマスがついてる!

「…………、」

何に張り合っているのかあまりよくわからなくなって、ちょっと赤面したあと、大人しくスニーカーに履き替えた。
どのみち歩き回る事になるのだから。
こんな広い大学の敷地で、サムを探すのは大変だ。
とりあえず、学生寮だ。
目印は、学生寮。
手近に、若々しさに溢れた完璧な後ろ姿の女性に話し掛けた。スキニーを綺麗に履きこなしたピンヒールの女性の髪の色は美しい黒だ。そう、私こんな風なイメージで自分を描いていたのだけど。さっきまで。

「すみません、学生寮はどち…」

ら、という前に、振り向いた顔に、今日一番びっくりした。

「ミカエラ!?」
「ユマ!?」

二人がお互いを指差して、それから白い歯を見せて心からのハグをするまでに、時間はかからなかった。
見知らぬ場所でこんな風に知っている人間、ましてやそれが、何の説明はしなくともトランスフォーマーとサムを知るミカエラとくれば、もう運命を感じずにはいられない。

「すごい!まさかここで会えるなんて!!」

興奮を隠しきれないのは、ミカエラも一緒だ。

「どうしてここに?びっくり!」
「多分、ミカエラと同じ目的」

微笑んでそう言うと、ミカエラは目を丸くした。

「サムに会いにきたの?」

うん、と頷きながらしゃがみこみ、スニーカーの紐を結ぶ。視界に入ってきたのは、彼女のまるでモデルのようなつま先の横にある、使い込まれた頑丈そうなアタッシュケースだった。
それがいきなり乱暴にがこがこと揺れた。びっくりして手を止めた。

「なに、それ」

ミカエラは得意げにそれを踏んづけて、ニッコリと笑みを返した。ピンヒールで踏みつけられた途端に箱は、大人しくなった。

「最近飼い始めたのよ」

何事もなかったかのようにそれを持ち上げるミカエラの表情は明るい。
遠距離になってしまうから、と強がりながらも寂しがっていた先週までのミカエラの影は、そこにはなかった。

「学生寮は多分、あっち」

いかにも大学、という感じの品位と、質のいい年季ある風景を見回し、宇宙人を通じて仲良くなった地球人二人は、指差した方向へ、歩きだした。



学生寮の三階の通路を歩きながら、二人に振り向く男性陣は多かった。
ミカエラは本当に美人だから、その気持ちはすごくわかる。目線が鋭い。この年頃の男性は、みんな必死なのだ、"ハンティング"に。
若々しい男性というのを、久しぶりに見た気がする。
オプティマスは此処にいる男性よりももちろん、見た感じは年上だ。精神年齢も。
しかし少なくとも自分にとっては、此処にいる誰よりも、オプティマスは素敵だ。
だからまっすぐ前を見て、視線を気にすることなく歩けた。
歩きながらふと、ミカエラが口を開いた。

「"彼"、元気?」

ミカエラの、こういう自然なところが大好きなのだ。たとえ想う相手が人間でなくとも、彼女は偏った目で見ない。
そんな彼女の繊細な優しさに気づいている。サムもきっと、彼女のこんなところが好きに違いない。

「うん、相変わらず"忙しく"してる」
「…大変ね」

誰が盗み聞きしても、まさか話す相手が、ミカエラがふせた"彼"が、エイリアンだとは気づかないのだ。

「ここよ、たぶん」

話をしているうちに、サムの部屋だと思しき部屋を見つけた。ミカエラはドアをあける前から柔らかい笑顔になっている。それを横で見て、つられて笑顔になった。

「サム…」

二人が扉を開けた先の光景は、後にも先にも、こんなに気まずい場面はないだろうとしか言いようのないものだった。
馬乗りになった女性は、金髪だ。
キスをしているのは、ベッドの上。
キスをしているのは、サムと金髪だ。
最悪、だ。
こういうのを、言葉を失う、というのかもしれない。
ミカエラは、扉を半分開けたまま、ただ濃厚にキスをしている二人を見つめなければならなかった。

「み、ミカエラ!!」

慌てふためきステディの名を呼んだサムに対し、余裕綽々の金髪は、慌てる様子さえない。

「…あなたの彼女?」

サムがミカエラを見つめたまま、ああ、と世界一情けない返事をした。

「………元、ね」

ミカエラの言葉に思わず頷く。
バタンと勢いよく扉を閉め、つかつかと歩き出したミカエラを追う。
本来はサムに話があったが、とにかく今はミカエラを一人にしてはいけない、と思った。腹が立っているのは自分も一緒だ。
サムはミカエラの事を、こんなかたちでは絶対に傷つけないと信じていたから。

「ミカエラ、」

話し掛けた時、後方で、ドゴン、と打ちつけたような激しい音がした。
すぐさま振り返る。
轟音はどんどん酷くなる。時々、叫び声が聞こえた。聞き覚えのあるその声に、二人同時に顔を見合わせ、もときた道を引き返した。
やはり轟音はサムの部屋が震源に間違いない。扉の前に辿り着いた時、反対方向からやってきたくるくる頭の男性と鉢合わせた。彼もこの部屋に用があるらしい。
扉を勢いよく開ける。

「なぁおいサム、お前のセフレのアリス……」

部屋を開けたまま、入口の三人の表情が固まった。そして次にする事と言えば、叫ぶ事。
サムが、金髪の口からでた長い銀色の舌に、首を絞められ壁に張り付けられている。

「サム!!」

思わず叫んだ時、ミカエラはもうすでに反射的にアタッシュケースを金髪に投げつけていた。
金髪は金属のケースを難無く避け、それはむなしく窓ガラスを突き破った。衝撃で入口に打ち付けられたサムが、パニック状態で腰を抜かしかけている。

「う、う、うわあああっ!」

叫び声をあげながら四人の若者が逃げ去った部屋では、ゆっくりと金髪だった女性が擬態を解いてゆく。
間一髪逃げ切った四人の後方では、並みの威力ではない爆発が、格式高い寮の壁を思いきりぶち抜いていた。
09/07/08