実写/バンブルビー | ナノ
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I Need You!

小さな命との遭遇

俺がユマの事を話す上で、まず説明しておかなければならないことがある。俺はユマを、とても小さい頃から知っていた。もう随分地球にいるので、サイバトロンの周期ではなく地球の元号で数えてみる。そうだ、あれは今から15年前。
地球にきてからまだ数年で、俺はサミュエルという少年を保護する任務から離れてしまってはいたが、勿論地球人では彼が一番の友達であったから、いつも彼にくっついていた。体に熱がたまっていく狭いガレージで生活する日々は最初こそ奇妙だったが、新しい事ばかりしていて楽しかった。しかし反面、やはり敵軍の不穏な動きがあれば斥候として走る日々を相変わらず過ごしていた。
最初に出会ったのは、潜伏者を派遣先で追っている時だった。
接触したのはほんのわずかな時間だったし、あの時はこんな未来を歩むなんていうことは、当然だが予測していなかった。

…15 YEARS AGO…



───バンブルビー、進み過ぎよ。いくら私のセンサーがよくても、その距離じゃ取れないわ

通信機から漏れた自分よりも遙かに若いオートボット(名前は知らない)の声に短く呼応しつつ、"地球なんてちっぽけな星、3000周したってぶれずに届くわよ"、とか言ってなかったか、と思った。すると、思っていた事が別の通信路から声になって届いた。

───こんな距離で取れないだと?お前の"感度"は最高だって聞いたけどな

サイドスワイプだった。
何ともいえない慌てた電子音が波になり伝わってくる。

───なんの情報網よ、それ。どうしてサイドスワイプの声が聞こえるの!個人回線なのに

個人回線なんて面倒じゃないか、いちいちプライベートにする意味がないし、人間が使う無線みたいに共有してしまえば一度でオプティマスにまで戦況が伝わる。そう思って予め共通回線に切り替えておいたのだ。

───なんで個人回線にする必要があるんだよ

あ、またサイドスワイプが俺が思っていた言葉を言ってくれた。…と思ったら、その通信の波が戻らないうちにサイドスワイプがプライベートな信号をよこしてきた。

───なんでお前ばっかりモテるんだよ、ビー

若いの全部持って行きやがってこの野郎、までは聞こえたが、それからは回線が全部ひとつにまとまった。抗えない遠隔制御だ。オートボットの通信網を強制的に変えることが出来るのは、この場にいない総司令を除いて、将校ただひとりだ。

───任務中は無駄口をたたくな諸君、オールスパークにかけて。オートボットの名折れだぞ

ジャズが今はここの最高責任者なわけで、いつものフランクな彼はなりを潜め、近寄りがたい雰囲気が言葉から伝わる。
静かに持場に意識を戻していく仲間達の中に紛れ、突然、予期せぬ気配が入り込んでくるのを感じた。しかも、とても近いところから。
一瞬、意識が止まる。
───しかし敵ではなかった。カラフルなビニール製のボールがぱちんぱちんと弾かれる音がする。それがこちらに転がってきたかと思ったら、こともあろうに自分の車体の下に入り込んでしまったのだ。

『………』

人間か。困った。
静物を装うことに徹したいが、今は任務中。
この界隈の人間は、三時間前に現地チームが避難させたんじゃなかったのか。そんなふうに考えていると、ボンネットに届かないほどの身長しかない少女が、目の前に立っていることに気がついた。恨めしそうにこちらを眺めている。

「わたちのボール…」

年の頃は3歳くらいだろうか。

「かえちて」

たどたどしい口調で、純粋ゆえに車に話しかけている少女は、微動だにせず、俺を見ていた。

「きいろのくるましゃん、わたちのボール、たべちゃったの?」

未完成な人間の子供のボールを体の下に迎え入れたのは偶然だが、この子にとって悪者になるのは嫌だった。

『──"姫様、ここは危険でございます"、"逃げて!"』

映画のセリフの継ぎ接ぎ、久しぶりにやった気がする。少女は理解できなかった様子。

「──イエローチーム!第一のターゲットがそっちに行った!」

突然現れた少女との奇妙なやり取りと雰囲気のなか、その空気を突き破る切羽詰まったレノックスの声が、回線の受容声量ギリギリで割れている。

──充分射程圏だぜ!!

サイドスワイプが銃を撃つより簡単そうに、サーベルを的確に投げ込んだ先に、赤く光るディセプティコンがいた。自分たちと同じ、ビークル型の形態のようだ。サーチスコープがなくとも確認できたし、サイドスワイプの強烈な飛び道具がきれいに命中したフロントガラスも裸眼で確認できた。しかしターゲットは電子的な悲鳴をあげたものの、ひるむことなく破片を散らしながらまっすぐこちらに向かってきている。

──なんて野郎だ!バンブルビー!

頼む、の意を込めたサイドスワイプの『バンブルビー!』は、しっかり受け止めたが、こちらには一点、非常にまずい問題がある。なんと先ほどの少女が、車体の下で寝転がり遊びだしたのだ。傷つけずに変形する自信がない。しかし敵はサイドスワイプの攻撃範囲を越え、接近戦の範囲内にまで詰まってきていた。

『───ヴォラァァ!!!』

野蛮なディセプティコンの怒声に、少女はわずかだが反応した。しかしどこ吹く風といわんばかりに、車の下の狭い中、泥とボールで遊んでいる。
向かってくるディセプティコンを迎え打ちボコボコにしたいところだが、そうできない。

──バンブルビー!?

連絡係のオートボットの声。

──バンブルビー!何してる、撃て!

サイドスワイプの声。
仕方がなかったから車のままで一発撃った。ディセプティコンはまだ怯まなかった。その後、奇妙な遊び場を見つけてしまった少女を、怪我を負わせない程度にゆるやかに押し飛ばし、出来るだけ時間をかけて慎重に変形した。少女は突然の出来事に目を白黒させていたが、怖がって泣き出してしまう前に、掴んで目を見た。

『ママのところに連れて行ってあげよう』

手中の少女は不思議そうな顔をしたが、「うん」と頷き、「きいろのくるましゃんはロォット」と続けた。なかなか理解が早い。それにしっかりと頷き、戦闘用マスクをおろした。目の前で特撮ヒーローさながらの変身を目の当たりにし、その瞳をきらきらと輝かせる少女を壊さないように慎重に掴みなおし、振り向きざま、背後から迫ってくるディセプティコンに照準をロックした。可能な限り引きつけ、倒すには充分のパワーを一気に放出させた。青白いキャノンの光は夕方の空気に溶けていき───、そしてその光はまっすぐに、ディセプティコンの胸に貫通した。
本来ならとどめをさせる威力ではないが、至近距離ならばスパークを撃ちぬけるのだ。
ディセプティコンの目が、赤から無色になった。



少女を避難所付近へ送り届けたのは、それから20分たってからだ。できる限り急いだつもりだ。

「ユマ!」

ぽかんと立っている少女はユマと呼ばれ、心底愛しそうに抱き締めた女性は、ユマの母親のようだ。

「どこに行ってたの?」

母親の問いに、少女はにこやかに答えた。

「きいろのロォットとあそんでた」
「え?」

草陰に隠れて、忘れ物のボールをゆっくり投げた後、仲間の元へ帰った。
それが、最初の出会いだ。
2010/09/22