銀魂 bygone days番外編


その日は、いつもと変わらない1日だった。

夕方から入っている会食。

それまではとりあえず喫茶店でのんびりしようと小説片手に一番奥の席を陣取った。

今お気に入りなのはこの一番奥にあるカウンター席。この時間帯に来る人はあんまりいないから堂々と広々使える。

この店の店主とは馴染みで割と仲が良い。
何時間居座っても文句を言われないのも魅力である。あ、ちゃんと注文もするけどね。

ケーキセットと紅茶を一つ頼み、私は小説の世界へ入り込む。この物語は近未来を舞台にしていて、そこでは沢山のからくりたちが私たちと同じように普通に暮らしている。

そう。この小説の主人公はからくりなのだ。

黙々と読み進めて、気付けば残り半分以下になっていたページ。今物凄くいいところだったけど、とりあえず喉が乾いたから一旦閉じて冷めてしまった紅茶を口に含む。

「…すまないが、隣よろしいかな?」

そう声を掛けられて顔を上げれば、そこには変なグラサンをかけ背中に楽器らしきものを背負った割と若めな男が立っていた。手に持っているのは私が頼んだケーキセットと全く同じ。

「どうぞ。ここで良ければ」

鞄を足元に移動させ、隣を空ける。なんだか親近感が沸いたというのも少々。それから、何だか不思議な雰囲気が気になった、というのも。

周りには沢山空席がある。別にわざわざここでなくてもいいだろうに。…それとも、ここじゃないとダメな理由でもあるのか。

たとえば…私、とか。

「…さすが、鋭いでござるな」
「なぁに?お兄さん、心でも読めんの?」

まさか、そんなはずは。確かに私は音読モノローグが癖になりつつあるけど、こんな場所で音読するほど常識外れじゃないと信じたい。

それとも、もしかして顔に出てる?
えええ?そんなはずないっしょ。アレだよ?自慢のポーカーフェイスが。

「リズム、」
「ん?」
「魂のリズムが、変わったでござる」

ご、ごさる…だと!?

私は彼のその言葉よりも、語尾の方が気になって仕方なかった。まさか、アンタ剣心か!?流浪してんの?流れ者なの!?

「…フ、面白い女だな。やはり、晋助の言う通りでござった」
「晋助って…え?晋ちゃん?」
「晋助から伝言を預かった。…一月後、例の約束を果たす、と」

そう言い終わると同時に物凄いスピードでケーキとコーヒーを胃に流し込み、彼は席を立った。

最後、また会おうと言葉を残して。

まるで嵐のように、突然現れて消えていった彼。一体何者なのか、ていうか晋ちゃんとはどういう関係?仲間?え?鬼兵隊?あの変なグラサンが?

いろいろ腑に落ちない中、ふと視界に入った青いハンカチ。…明らかに今の彼のものだろう。なんだろう。このわざとらしさ感。すっげーわざとらしいわ。何コレ腹立つ。

最後の、また会おうってこういう意味?とか思ったら無性にイライラしてきた。今すぐこのハンカチを燃やしたくてたまらない。灰にしたいわ、あのグラサンとの出会いも全てな。

私の優雅なティータイムを邪魔しやがってよォ…!

ていうか、一つ良い?

晋ちゃん、私連絡先渡したよね?普通に電話してくればよくね?スモホとかアラフォンとか流行ってんじゃん今。

すぐ繋がんじゃん今。伝言ってお前、どうしたの?わざわざあのグラサン使ってお前…。

ていうかガリケー持ってんだろお前。あの祭りの日も袖に入れてたろ。知ってんだぞ私。昔からアンタ大事なもの袖に入れるよね。財布とか財布とか財布とか。

…世の中は常に発達していってるのに、アンタ何してんの?いつまでも学生気分か。

中二か、中二なのか。いい加減進もうよ。立ち止まってちゃこの先何にも見えないよ?お先真っ暗だよ?ホント。

歩き出せよ!己の殻を破るんだ!!それからスモホかアラフォン買えよ晋助ェェエ!!

(…スンマセン、ちょっと熱くなりすぎました)

とりあえず一月後。あんみつが有名らしい、彼自慢の甘味屋へ連れてってくれるそうなので楽しみに待ってようと思います。…アレ?作文?

end

平成26年6月21日(土) 過去clapへ移動

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