銀魂 bygone days番外編その2


さて、前回のあらすじを覚えておいでだろうか?
(分からない、という方は過去clap&bygone days15話を是非読んで頂きたい)

そう、久しぶりに再会した幼なじみとあんみつを食べに行くという約束を交わしたのが一月前。

そして今日がその約束の日。私は現在、待ち合わせの時間を30分過ぎても現れない男をイライライライラしながら待っていた。

当の昔に食べ終えた団子の串を弄びながら何度目か分からない溜め息を吐いた時、目の前に出来た影に顔を上げれば。

「よォ、待ったかァ?」
「ふざけんな30分以上待ったぞコラ」

飄々とした表情で奴はそこに立っていた。

目深に被った傘とド派手な着物。嫌でも目立つその風貌に、よくバレないなぁ…なんてある意味感嘆の溜め息が出る。

…待ち合わせ場所に指定されたのは近くの団子屋だった。勿論、時間も場所も決めたのは晋ちゃん。

なのに、どうよこれ?決めた本人が遅れるってお前…

悪気が一切感じられない立ち居振舞いにギッと音が付きそうな程の睨みを効かせれば奴はクク、と喉で笑う。…何なのコイツ腹立つわ。

「ちょっと、何がおかしいの?言っとくけどね、アンタが遅いせいで私ここの店員にめちゃくちゃ変な目で見られたんだからね。団子一本とお茶だけで30分も居座る客って珍しい…とかコソコソ話されてんの丸聞こえだったんだからね」
「へェ?」
「へェ、じゃねーよ。これであんみつ美味しくなかったらお前、抹茶パフェも奢ってもらうかんな」

そう言いつつようやく重い腰を上げれば中から、あら!待ち合わせだったの!?なんて声が聞こえてくる。

そうだよ、待ち合わせだよ!悪いか!そう思いながら目をやればバチっとしっかり目が合っちゃって。

「ご、ご馳走さまでした〜」

一応、頭を下げれば向こうも慌ててありがとうございました!と頭を下げる。

よし、いざ甘味屋へ!と気を取り直して宣言した私を置いて先を歩き出した晋ちゃんを、待ってよ晋ちゃん!と追いかける。

すると背後で、もしかして彼氏かしら!?なんてやり取りまで聞こえてきて。なんでだろう?無性にイラッとしたのは。

「…クク、相当男っ気なさそうに見えたんだろーなァ」

ようやく追い付いて隣に並んだ所で、これまたバカにしたような笑い声がする。うるさいな、と再び奴を睨み上げれば一瞬その隻眼と目が合って。

「お前だけは、変わんねェと思ってたが…」
「?思ってたが?」
「…いや、なんでもねェ」
「ちょっと、何なの?気になるんですけど。言いかけて止めないでよ」

気付いたらいつの間にか逸らされていた目に首を傾げる。変な晋ちゃん、そう言えば聞こえたのはうるせェよ、と漏れた小さな声で。

「…あのさ。なんか、あった?」

そう思ったのは別に勘でも何でもない。ただ、なんか、変だなぁと思ったから。考えてる事を昔から読ませない奴だったけど、今日の晋ちゃんは本当に読めない。

まず遅刻してきた時点でおかしいもんね。時間に関しては昔から、たろーの次に厳しかったのに。

見えない表情をチラリ、覗きこもうとして数秒。目の前に現れたモノに思考が奪われる。…えーと、え?何これ?

「あの、晋ちゃん?」
「…なんだァ?いらねェのか」
「え?いらねェのかって…何?もしかしてこれ私に?」

だったら何だ、と。冷たい言葉とは裏腹に差し出された物は小さくて可愛らしいデザインの箱だった。え?私今日誕生日だったっけ?そうボケてみても晋ちゃんから笑いが取れるはずもない。

いらねェなら捨てる、と言う声に慌ててその手から箱を奪って。…あ、取っちゃったと後悔。

「本当に、いいの?これ」
「…良くなけりゃ、やんねェだろうよ」

少し上にある晋ちゃんの顔を伺えば何やら満足そうな様子。煙管を吹かしながらチラリ、と私を見下ろす彼と手の中の箱とを交互に見てから可愛らしく施されていた包装をピリ、と剥がして。

中を確認した途端、私の目は釘付けになる。

「…これ、フィファニーのピアスじゃん」

お洒落なケースの中に入っていた、キラキラ光る石のついた小ぶりなピアス。包装もケースもいつもと違ってたから気付かなかったけど。

ここのアクセサリーはかなり有名なブランドのもので。

実はこれ、ずっと買おうと思ってたんだよね。

「え、こんな高いもの急になんで?」

え?ていうか本当に貰っていいのこれ?と首を傾げた私をじっと見ていた晋ちゃんから、次の瞬間信じられない一言が。

「…それでも付けてりゃ、ちったァ女らしくなんじゃねーかァ?」

…オイ、もしかしてそれ遠回しにさっきの事言ってる?さっきの話掘り返してる?ちょっと、聞き捨てなんないよそれは。

私どっからどう見ても素敵なお姉さんになったでしょーが。

「そうですねェ。でも、これ以上女らしくなったらモテすぎて困っちゃうんだけどね」
「ハッ、ほざきやがる」
「え?何か言いました?」

そう言えば落ちてきた垂直チョップに少し…いや、かなり涙が浮かんだけれど。

「ありがとう。これ、大切にするね」

それ以上に嬉しくてたまらなかったから。

抑えきれない笑顔で見上げた先で、晋ちゃんの冷たい手に弄ばれる私の髪の毛。

やめて、と言ってもやめないその姿が…どうしてだろう?昔の、晋ちゃんと重なって見えた気がして。

「…晋ちゃんも、変わってない」

本当にね。本当に、そう思ったから。

けれど、その言葉を聞いた途端離れていった晋ちゃんの手。

どうだかな、聞こえたその声がやけに冷たく感じた。

それから私と目を合わせようとしなくなった晋ちゃん。先を歩き出した彼の後を今度はただただついていって。

それからしばらくして辿り着いた甘味屋。

彼は私の目を一度も見ずに言葉を漏らす。好きなだけ頼め、と。

(…あんみつも抹茶パフェも凄く美味しかった。なのに、なんだろう?このモヤモヤは、一体)

end

平成27年2月3日(火) 過去clapへ移動

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