好きだからこそ苛めたくなる


これのanother storyです


明日は俺の誕生日。

何故か三日前から近藤さんは一人息巻いていて。

ケーキにご馳走、旨いモンたらふく準備して屯所でパーティーしような!あ、蝋燭何本用意する!?と、気が早いも早い。

楽し気にデジカメ片手に大笑いをしていたのは記憶に新しい。

子供の誕生会?みたいなノリには敢えて目を瞑ろうと思う。…まァ昔からあの人は誕生日っつったらパーティー!みたいなお祭り人間だったから。

三日前だというのに早くも準備万端とばかりにデジカメを首に掛けていたが、その事に関しても別に何とも思わなかった。アレだ、慣れってやつだ。

そんな近藤さんの行き過ぎた優しさというか、仲間に対する愛情というか。とにかく、そーゆー気持ちは凄く有難いし嬉しくもある。

…姉上がいなくなって、初めて迎える誕生日。

近藤さんが、祝ってくれる身内がいなくなった俺を気遣って、いつにも増して盛り上げようとしてくれてるのも分かる。

だけど正直、そーゆーの全部除いたとしても。

自分の誕生日が、あんまり嬉しくないというのが現状だったりする。

…なんてったって。

「…ちょっと、何で人ん家の前に座り込んでんのアンタは?」

ていうか何で私の家知ってんの?と。目の前で迷惑そうに俺を見下ろすこのメス豚には一言もお祝いの言葉なんざ貰っちゃいねーわけで。

「…たまたま表札見つけた」
「どんなたまたまだよ」

そう言って溜め息を吐くこの女、ナマエとはここ最近、所謂悪友という立場を利用してコンタクトを取っている。悪友、だなんて…そう思っているのは多分俺だけ。そしてコンタクトを取る、なんていう生易しいものでもない。

主にコンビニで働くこいつに対しての嫌がらせ(これは自分でもさすがに嫌がらせだと分かっている)が俺に出来る唯一のアピール。これでもかと自分を印象付けるための、手酷いアピールである。

だからまあ、確実に嫌われてると思う。だがそれでも、毎度こうして俺がナマエの前に現れるのは少しでもこの女の意識を自分に向けるため。

「オイ、俺明日誕生日」
「…だから何?」
「つっめてー。エ●サの作る雪よりも冷たいでさァ。おめでとう位あってもいいんじゃないの?総くんおめでとう(はぁと)くらいあってもいいんじゃないの?」
「ふざけてんの?心臓凍らそうか?」

何回目か分からない自身の情報を伝えても、彼女は只冷たくあしらうだけ。

…このままでいいのか。芽生えている感情を読み取って心の中で声がする。分かってる。けど、どうすりゃいい。

このまま、何も変わらないまま。それはそれでいいのかもしれない。今の関係も俺はそこそこ気に入ってる。自分の性格上、どうしてもナマエの困った顔が見てーと思うし。

悪友、そのポジションも悪くねーとは思う。だが、それじゃ出来ねー事も山程あるわけで。

…いや、そりゃ如何わしい事だって考えますよ?好きな女と、あんなことやこんなことをしたいと思うのは健全な十代の男ならば当たり前だし。

でも、それだけじゃなくて。

…いつだって、ナマエが俺に向けるのは冷めた目か怒った顔。おまけに罵声と溶けたアイスクリーム(それは俺が溶かしたヤツだけど)。

今まで当たり前で、満足だった彼女のその表情にも態度にも最近満足出来ずにいる。ドSの性分故にどんなに好意を寄せていても虐め抜く事しか出来ねーが。

たまには、笑った顔も見てみたい…なんざ。そう思っちまったから。

こうして毎日のよう誕生日と俺自身の情報を与え続けているわけだ。さすがにそろそろおかしいことに気付くだろうと勝手に踏んで。

…しかしまさかここまで鈍感だとは思わなかった。いやそりゃ、今までの自分の行いを忘れたわけじゃねーけど。

「おいおい、何でィその態度は。いくら何でも酷すぎやしませんかィ?こっちは土方のヤローに押し付けられた仕事サボってまで誕生日前日にこの雨の中待ってたっつーのに」
「いやいや、まず仕事サボっちゃダメでしょーが!また土方さんに怒られるんじゃないの?アンタらのやり合いに巻き込まないでよ私らを。…ハァ、今日は珍しくコンビニ来ないと思ったら家の前にいるなんて」
「…何でもいいから入れて下せェ。濡れたせいで寒いんでさァ」
「ハァ?嫌に決まってんでしょ?つーか何で傘持ってないの?」
「忘れやした」
「この雨の中?バカなの?お前バカだろ?…ハァ、」

今日なんて厄日?なんて。またまた重い溜め息を吐くナマエをしばらく見上げていたら襲ってきた身震いにわざとらしく自分の肩を掻き抱いて。

「さ、寒ィ…風邪引いたかも」
「は?」

ゴホゴホ、なんておまけに咳までしてみせれば急に変わった顔色。最悪!なんて言いながらも慌てたように俺の手を引いて家の中に上げるもんだから、それだけで満足しかけて。

「…なァ、」
「は!?何!?」

とりあえずシャワー浴びて着替えて!と渡されたバスタオルを抱えて見やれば、彼女は慌ててやかんに水を入れていて。

こちらを見向きもせずに、でも確実に俺の為に動いている姿に何とも言えない気持ちになる。伸ばした手の先に触れた細い肩。

不思議そうな顔して振り向いたナマエの唇に自分のそれを押し付けたのは、別に勢いなんかじゃない。

ずっと。本当はずっとそうしたかったから。

「っや!」

パンッ!静かな部屋に響いたのは無機質な破裂音。それからしばらくしてジワジワと痛みだした左頬に、あー叩かれたのかと理解した時には目の前で彼女は泣いていて。

…初めて見た、ナマエの泣き顔に叩かれた頬より胸が痛みだす。そんなに、嫌だったのか。そこまで俺は嫌われてたっつーのかよ。

「…悪かった」

顔を直視出来なかった。聞こえてくる嗚咽を聞こえないフリして家を出て。

降り続く雨の中、屯所に向かって重い足を引き摺った。


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