今日は夕方から約束がある。約束の相手は十四郎さんじゃなくて近藤さん。前回、十四郎さんの誕生日パーティーをした時に顔馴染みになった隊士さんの誕生日パーティーを開くからおいで、と。

勿論二つ返事で頷いたのには訳がある。隊士でもない私をわざわざ誘ってくれたことが嬉しかったのと、十四郎さんに会える理由が出来たこと。

そんなわけで、私は朝から気合い十分だった。滅多にしない早起きをして、やる事全部終わらせて。それからお風呂に入って化粧して。この間買った、少し派手目の着物も用意して。

そうして時間が来るまでテレビを見て過ごしていたら漫画を読んでいた妹に、時間いいの?と聞かれて。見ていたドラマが丁度良いところだったせいか、えー?まだ大丈夫だよ。これ見てから…と言いかけて時計を見て固まった。

…ヤバッ!時間ギリギリだったァァア!

「そ、それじゃ行ってくるね!いつ帰ってくるか分からないからしっかり戸締まりしててね!また帰る前連絡するから!あ、でもあんまり遅かったら先に寝てていいからね!」
「大丈夫だから彼氏みたいな心配しないでくんない?ほら、時間やばいんだから行った行った」

携帯と妹とを交互に見ながら捲し立てるように放った言葉。慌てているせいか言っている事がメチャクチャなのはご愛嬌。だけどそんな事知ったこっちゃない幸からしてみれば呆れるのも当然かもしれない。

返ってきたのは辛辣すぎる言葉で。

しっしっとまるであしらうように手を払われて落ち込めば、背後で聞こえた溜め息と笑い声。しょうがないなぁ…呆れ気味にそう言った幸の声が何だか凄く優しく響いた気がして振り向けば。

「楽しんで来てね、お姉ちゃん」

行ってらっしゃい。そう言って笑う彼女に思いきり手を振り返して、駆け出した。


ー…十四郎さんに、全てを打ち明けたあの日から数日が経った。あんなに辛かったのに、苦しかったのに。…気が付いたら、数年間ずっと抱えてた罪悪感とか、いろんな重たい感情がスッと消えて無くなったような気がする。

不思議なの、十四郎さんは。側にいるだけで、笑ってくれるだけで。何もかも大丈夫な気がするの。どんなことがあっても笑ってられるような、そんな気が。

上がる息を整えながら時間を確認する為に歩を緩めた。走ったおかげか時間にはまだ余裕がある。その事にホッと息を吐いて、見慣れた道を進んで行けば遠くに見えた黒い塊。

あ、もしかしたら真選組の人?そう思いながら近付いてくるその姿をガン見する。黒=真選組の隊服。十四郎さんと出会ってからそう思うのが当たり前になっている自分に対して浮かぶのは嘲笑だった。だって、黒…なんてきっとどこにでもある色で。

…何でもかんでも彼と結びつけてしまう癖をどうにかしなければ。

顔が判別出来るくらいの距離になった時絶えず動かしていた足がピタリ、と止まった。…だって、そこにいたのは。

「あ、あれ?どうしたんですか?」
「…遅ェから迎えに来たんだよ」

悪ィか?と、隊服に身を包み不機嫌そうに眉間に皺を寄せる十四郎さんで。

迎えに来た?え?私を?…十四郎さんが?

近藤さんとした約束なのに、どうして知ってるの?と。考えたらすぐ分かることなのに何故か理解出来なくて。え?と首を傾げれば、その荷物貸せ、とぶっきらぼうに手提げを奪い取られる。行くぞ、と差し出された彼の手を一度、二度と見やってから。

「っ好き!」

ガバリ、その体に抱き付いた。

「うおォっ!?び、っくりすんだろーが!…ったく、急に抱き付くなっつってんだろ」

転けんだろーが、と。最後に聞こえた声があまりにも優しくて。だって好きなんですもん、そう言えば呆れたように、そうかよと返ってくる。

ぐりぐり、その胸に顔を押し付けていればくすぐったいからやめろ、と頭に乗った大きな手。見上げれば柔らかく微笑う目と目が合うから。…物凄く、言いたくなったんだ。

「…あのね、十四郎さん」
「あん?」
「大大大好きっ!」

私と出会ってくれてありがとう。沢山の幸せをありがとう。これからも、きっと迷惑いっぱい掛けちゃうと思うけどよろしくね。嫌いに、ならないでね。

(ずっとずっと貴方だけを愛し続けます)

end
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