ナマエの様子がおかしい。…初めにそれに気が付いたのは俺でも近藤さんでも総悟でもなく、女中頭のお時だった。

『副長さん。そういや最近、ナマエちゃん何だか元気がないねぇ』
『…そうか?いつもと同じようにしか見えねェんだが』
『まぁ、アンタが言うなら違いないかもしれないけれど…何だか、私には無理して笑ってるようにしか見えなくてねぇ…』

…無理して笑ってる?ナマエが?

そのお時の言葉が妙に頭に引っ掛かって、食べかけだった昼飯の土方スペシャルをドン、とテーブルに置く。…別に、特別二人の間に何かがあったということはない。

俺達は喧嘩どころか言い合いすらしたことはないし、今のところ上手くいってると自分では思っている。…だが待て。もしかしたら、そう思ってるのは俺だけでナマエはそうは思ってないんじゃねーのか…?

そこまで考え出すとなかなか戻って来れないようで。終いには持っていた箸まで置いて思考する始末。

そんな俺を見て、お時は焦ったようにま、まぁ!女心は秋の空って言うしね!と何とも言えねーフォローを入れてくるから。

『…それとなく聞いてみるわ』

それだけ告げて、またマヨ丼を喉に流し込む。お時はそんな俺に対して一礼するとそそくさと台所へと消えてった。…なんつーか、そういうのは女の勘ってやつなのか。

まさか当たるなんざ、この時は思ってもみなかったけれど。

…結局その日、屯所に顔を出さなかったナマエ。連絡の一本もなく夕方になって夜が来て。

まぁ、別に?毎日連絡取ってるわけじゃねーけど?全く連絡ない日だってあるに決まってんだろ?俺ァ、全く気にしてねーけど?…なんて、そう言いながらもずっと携帯を気にしていたら。

「あ、そうだ土方さん。そういや、ナマエの様子がおかしいって話聞きやした?」

自室から出てすぐ、目の前にひょっこり現れた総悟。狙ったんじゃね?と思わさざる負えないタイミングで現れて、そんなタイムリーな話題を出してくるから。

「…そうらしいな」

こいつのことだ。何か裏があるに違いねェ。すっと視線を逸らしてそう返せば、そういや…少し前に悩んでることがあるって言ってたなァ?という声が聞こえて。

「…悩んでること?」
「詳しくは知りやせんけど、どうも一筋縄じゃいかねェ話だそうで」

だいぶ悩んでましたけど、と。総悟にしちゃ珍しく真面目に話すもんだから、途端にいろいろ気になって。

「…ちょっと出てくるわ」
「アレ?こんな夜更けに?」
「あァ」

くたり、と座椅子に掛かっていた隊服の上着を引っ掴んで歩き出せば、多分今頃仕事ですぜと背中に声が掛けられる。…仕事?こんな夜遅くにか?

とりあえず確認がてら、ナマエに電話をかける。プルルル、と聞こえる無機質な呼び出し音はしばらく待ってみてもそのままで。

こんな夜更けに電話をかけたことは無かったが出ないところをみるとどうやら総悟の言うとおり仕事中なのかもしれない。…つーか、何でアイツが知ってんだ?

そこまで考えて、また囚われる。…ナマエの、変化とか。悩みとか日常とか。俺は一番近くにいるはずなのに何一つ知らなかった。

…職場も分からねーんじゃ、恋人失格だよな。

玄関に向かって歩きながら上着のポケットの中に携帯を突っ込んで。…とりあえず前に一度だけ行ったナマエの家にでも行ってみることにした。確か、妹がいたよな?

「あれ?トシどっか行くの?」

ばったり。玄関前で出会った近藤さん。どうやら彼は今しがた帰ってきたらしい。酒の匂いがプンプンするし。短く、ナマエの家行ってくる。とだけ伝えて隣を通り過ぎようとしたらちょっと待って!と首根っこを掴まれた。く、苦しいィィイ!!俺を殺す気かァァア!!

「ナマエちゃん今日仕事でしょ?さっき見たらまだ店にいたよ」
「…知ってる」
「じゃあ家じゃなくて直接店に行った方がいいんじゃない?夜遅いし送ってあげてよ」
「…ふ、ふーん。そうなの?じゃ、そうするわ」
「トシ確かナマエちゃんの職場知らないだろ?はい、これ。ナマエちゃんの店の住所と電話番号」
「そりゃーご丁寧に、ありがとうよ!!」
「いったァァア!!っちょ、トシ?あの、なんで俺シバかれてんの?ねぇ?なんで?なんで勲頬腫らしてんの?ねぇ!トシ!」

なんでってそりゃムカついたからに決まってんだろ!とは、言わなかった。うん、そこは大人だからね俺も。

悪いな、近藤さん。何か無性にシバきたくなってよ。とだけ返して俺は屯所を後にした。背後で啜り泣く声が聞こえたような気がしたが、それは敢えてスルーすることにした。

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