トシと付き合って初めての春が来た。

冬独特の匂いやしん、とした寒さは無くなってぽかぽかと暖かい気候に包まれる。花粉症には実に辛い季節だが生憎私は花粉症ではないので春は好きだ。

ま、いつなるか分からないのがアレルギーの怖さではあるけれど。

「ナマエ、すまねェな。いつもこんな事ぐらいでしか会えねェで」
「なーに言ってんの?私はトシに会えるだけで嬉しいよ!」
「そ、そうか…いや、まァそれは俺もだが」

大量のマヨネーズの袋を2人で持って真選組までの道を歩く。と言っても私の手には小さな袋が1つだけ。トシの両手には重そうな大きい袋がぶら下がっている。

持つと何度言っても彼は毎回譲らない。自分の買い物だからと、男が荷物を持つもんだと。

大江戸スーパーから真選組までは大分距離がある。その道を私が午前まで仕事の時だけ2人で歩くのだ。それが私とトシの所謂デートというやつ。彼は毎日仕事で忙しいのでたまに息抜きと称して、私の働くスーパーまで買い物に来る。勿論午前まで仕事の時に。

私はそんな彼といたいがために真選組までの道を共に歩いて帰るのだ。我ながら青春してんなァとは思う。良い年こいてってのは余計だ。

「あのさ、トシ。やっぱ半分持つよ」
「何言ってんだ、持たせらんねーよ。重いぞ腕が千切れっぞ」
「そんくらい大丈夫だってば。ていうか、私エコバッグ持ってるからこっちに入れてくれたら肩に掛けられるし」
「…なァ、何でそこまでして持ちたがんだ?普通持ってもらって喜ぶんじゃねェの?女ってやつは」
「む、聞き捨てならないなー。女だからって皆そうとは限らないでしょうよ」
「わ、悪ィ。そういうつもりは…」

目に見えてアタフタしだしたトシに笑みが溢れる。彼の良いところは本当の意味で優しいところ。自分の都合で私を振り回すことなんてほとんどないし、いつだって私の気持ちを考えてくれる。…良い人。本当に、良い人すぎるくらい。

だから私はそんな彼に返したい。気持ちも勿論、いつも包み込むような愛をくれるこの人に。

「トシが私に半分分けてくれたら、こっちの手が空くじゃない?」
「あァ」
「それで、その荷物を私がこっちの肩に掛ければ…ホラ!こっちの手が空いた!」
「!」

どうやらようやく私の意図に気付いたらしい。例えるならば、まるでボッという効果音が付きそうな位真っ赤に染めあげた顔。戸惑ったように私と自分の手を交互に見比べている。…あぁ、本当に愛おしい。

「はい!繋ご!」
「お、おォォ!」
「なに?緊張してんの?」
「ななな何言ってんの?緊張?すすすするわけないじゃんバカじゃん!?」
「アハハ!分かったよ!」

初めて繋いだ二人の手。春の陽気に宛てられてか、トシの手は手汗満載だった。それを気にして離そうとする彼を無理矢理引き留めて私は笑う。

「私も手汗凄いから、お互い様よ」

そう言えば彼も柔らかく笑うから私はそれだけで満足です。

いい年こいて青春してるなあ。そう思うけれど、今がとても幸せなので良しとする。

end




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