…最近、ナマエは元気がないようだった。

それに気が付いていたのに、俺はあまりナマエとは会えなくて。

主に仕事上のすれ違い。だがそれでも時間を作ってはたまに会って話したり、飯を食いに行ったり。

…今日はそんな中でも珍しくゆっくり会える日で。今までに何度も訪れたナマエの部屋。

通いなれたはずの、彼女の部屋に二人きり。

俺といてもどこか遠くを見ているナマエに言いたいことは山程ある。

なかなか会えないのに、会えた日くらい俺を見てくれてもいいじゃないか。とか。せっかく一緒にいるのに、とか。でも彼女を見たらどうしても言えなくて。…泣きそうな、顔してんだよお前。気付いてるか?

「…ナマエ、どうした?」
「ん?何もないよ」

そう声をかけても返ってくる言葉はいつも同じ。何もない、なんて嘘だとすぐに分かるのに。俺には何一つ言わないで彼女はふわりと笑ってみせる。

とっくに気付いてんだよ、一人で何かを抱え込んでるってことくらい。

言えよ、頼れよ。

…俺はそんなに頼りないか?

こんなに近くにいるのにナマエの気持ちが分からない。何を考えているのか。今、心の中に誰がいるのか。

…だけど俺は、ナマエの力になってやりたい。悩みがあるなら聞いてやりたいし、元気付けてやりたいとも思う。それが惚れた弱味というやつだろう。

「なぁ…今度はウチに泊まりに来ねェか?」

そう言えば少しは柔いだ表情に。彼女の頭に手を伸ばして励ますように優しく撫でる。すると気持ち良さそうに目をつむるから。

「…俺は、いつでもお前の味方だよ」

そう言って自分の胸にナマエの顔を押し付けて。するとしばらくして震え出したその肩を俺はそろりと抱き締める。弱々しいその腕が背中に回ってくるのを感じて更に力を込めた。

「トシ…ごめっ、ごめんね、!」
「あぁ、」

泣きながら言うそのごめんね、がどうしようもなく気になった。…だけど今はまだ知りたくない。何故か押し寄せる不安にざわつく胸。

「好きだ、ナマエ…好きなんだ」
「っん、!」
「…俺から、離れていかないでくれ」
「あ、んん…っ」

ずるい、とは思う。分かってやってる。こう言えばナマエは離れていかないって。俺の側にいてくれるって。

でも離したくないんだ。好きなんだ、どうしようもなく。

溢れる涙を舌で掬いとってぎこちなく手を滑らせる。焦る気持ちからか、必死になる愛撫にも彼女は反応してくれる。俺で感じてくれている。それが、嬉しくて。

「…っあぁ!トシ、好きぃ!」
「…っあぁ、俺も!」

お互いのいろんなモノが混ざり合う。俺の首に伸びてくるナマエの腕。

また溢れて出ていくその涙に唇を落として自分の止まらない衝動を打ち付けて。涙声で喘ぐその声にらしくもなく興奮する。

「っあぁ!もう、私…!」
「…っはぁ、ナマエっ!」

そう言って力を込める彼女の爪が背中に食い込んでくる。その痛みなんて感じないくらい深く深く、突き立てて。彼女以外見えないように。彼女を感じていられるように。

何故か浮かんだ涙には見て見ぬふりをした。

失いたくないもの…それは、

(彼女の笑顔か、存在か)

end




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