…アンタたち、そろそろ結婚しないの?

今まで何度も聞かれてきた。親、友達、おまけに職場の人にまで。そりゃそうだ。なんてったって私も所謂アラサーと呼ばれる年になり、将来を考えればこそ結婚という人生の一歩を踏み出さなければならない時期だと思ってはいる。

そうなっても良いと思える相手がいるから大丈夫。そうやって自分を安心させてきたのかもしれない。だからこそ、そういう話題に触れることなくどこかなあなあに、この年までただ長いだけの付き合いを続けてきたのだ。…いや正しくは、続けていた、だろうか。

はい、三日前に別れました。

「…で?またなんで別れた。お前ら長かったろ」
「別にい〜…付き合いの長さと別れが比例するかってったらそうじゃないって話よ」

そう言えば呆れた顔で私を見るトシ。ある人が原因で知り合い、いつの間にか仲良くなっていた彼には割と本音を話せるので愚痴や悩みを聞いて貰いたいときはよくこうして飲み屋に召喚する。

ズケズケと辛辣な言葉もくれるけど必ずフォローを忘れないし、悩みを真剣に聞いてくれるところとか裏表のないこの人の性格を私は大層気に入っているのだ。

ちなみに彼は警察組織で働いている。しかもその中で二番目に偉い、副長の座に君臨しているのだとか。

役職とかよく分からないし、そもそもあまり興味もないしで自ら聞いたことはなかったけれどつい最近まで一緒にいたあの男が口癖のように税金ドロボーだなんて言うもんだから嫌でも覚えてしまった。

ぐい、と酒を一気に煽れば隣から制止の声がかかる。そんなものお構い無しに飲み続ければ屋台の親父さんからも制止の声。…頼むから、今は私を止めないで欲しい。

「…付き合ってよ、ヤケ酒に」
「オイ、2時間も前から付き合ってやってる俺の身にもなれ」
「なによぉ、冷たいなあ 」

彼と過ごした五年間。長いようで短かった彼との時間はあっという間になくなった。別れた理由は、まァ些細な喧嘩から発展した大喧嘩、とでも言っておこう。

なんていうか俗にいう価値観の違いというやつ?それを実感したというか、なんというか…まァそんな感じ。

今まで何度も喧嘩したっけ。それこそ最初から価値観なんて違ってたのかもしれない。趣味だって全然違うし。

異常な味覚を持つアイツとは食べ物の事で言い争ったこと数知れず。結局解決しなかったその食の違いというやつも、もしかしたら別れるきっかけの一つだったかもしれない。

…そりゃ、アイツに甲斐性があるとは思えない。でもさ、いつかはさ。周りの皆が言うように私たちにも幸せな未来があるんだって信じてた。隣には、困ったように笑うあいつが絶対いるんだって。

…勝手に、そう思ってたから。

「…おい、ナマエ」
「…っ自分から、フッといてさァ…こんな、辛いとは思わなかった」
「…泣けよ、スッキリするぜ」
「っアンタに言われなくても、もう、泣いてるからっ」
「そうかよ」

テキーラを飲み干して、涙も飲み干して。それでも溢れるから無理矢理トシの着流しを引っ張って涙を拭いた。私のせいでヨレヨレになってしまったのにも関わらず、トシは優しく頭を撫でてくれる。仕方ねェな、って。困ったように笑ってくれる。

…だけどその笑顔も、どこかアイツと重なるからまた余計に泣けてきて。

…分かってるの。自分から別れを告げた癖にって。自分で手放した癖にって。頭では分かってる。全部自分のせいだって。なのに…なんでだろう。今になって想いが溢れてくる。大切だったって。大好きだったって。あんな甲斐性なしでも、良いところはいっぱいあったんだって…今頃になってさ。

何も言わずに頭を撫で続けてくれるトシに甘える。でも、唯一この泣き顔は見られたくない。…アイツ以外に見せたくない。私のそんな勝手な思いも汲んで、尚側にいてくれるトシ。何も言わず、ただ黙って。

彼は私の隣でずっと酒を飲んでいた。何度か聞こえたおかわりの声。屋台の親父さんは彼を止めることはなかった。時折泣くなよ、とトシから聞こえる寂しそうな声がまた私の胸を締め付ける。

…ごめんなさい。都合のいい時だけいつも利用して、ごめんなさい。

貴方の気持ちに気付いてるのに、とても卑怯な私を許して。

end




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